2012年、中国共産党の総書記となった習近平は、「中国は、海洋強国を目指す」と宣言した。海洋強国とは、地球の表面の70%以上を占める「海」への影響力を高め、国際社会の主導権を握ろうとする野望だ。そのために、海軍力、海上警察力の強化を図るとともに、海底資源開発、造船、海運、水産など海に関わる多分野の産業への進出に注力している。
海洋強国の先には、習近平の念願である「中華民族の偉大なる復興」という旗印がある。
15世紀、「明」の時代、中国は、武力、経済力により、近隣国を朝貢国として、その支配下に組み入れ、中華思想による中国中心のアジア社会を形成していた。現代においても再び、中国中心の国際社会を作り、漢民族だけの繁栄を目指そうとしているのである。
中国漁船団が東シナ海を実効支配
まず、13億人もの国民の生活を維持するために、身近なアジア海域の水産資源と海底資源の獲得を目指している。
中国政府は、2013年、それまで分散していた海上警備機関の統合を行い、海洋権益の監視、海上治安維持、漁業監視、海上における税関の取り締まりを一元化した「中国海警局」を創設した。この統合の中心になっているのは、公安部の海上武装警察機関であり、漁業や海洋資源開発など海上で行われる行為は、一括管理されることとなった。
中国の海洋強国形成の尖兵となっているのが、国内に1000万人はいるといわれる漁民である。
中国は世界最大の水産大国である。2012年の国際連合食糧農業機関(FAO)の水産物の漁獲量・生産量の国別統計の推定値によると、中国は、およそ7037万トンで、世界一となっている。全世界の漁獲量、生産量の合計は、1億8294万トンであり、その4割近くを中国が占めていることになる。
日本に身近な例をとると、東シナ海および黄海における国別漁獲高は、中国の約800万トン、韓国の約100万トンに対し、日本はわずか20万トンにも満たない。さらに、2000年に発効した日中漁業協定(新協定)により、東シナ海中央部に日中両国がそれぞれ自国の漁船を管理する暫定措置水域が設定されてからは、不法操業の取り締まりも難しくなっている。しかし、過去の乱獲を反省し管理が厳しくなっている日本と、水産管理体制が未整備な中国とが同じ基準で漁業管理を行うことなど不可能である。
また、暫定措置水域内では、操業できる漁船の数は、日本側が年間800隻、中国側が1万8089隻と取り決められている。東シナ海は中国漁船によって席捲されているといっても過言ではない。また、漁獲量の上限は努力目標として設定され、日本が10万9250トンなのに対し、中国側は169万4645トンと15倍もの規模で漁業を行っているのである。
特に近年、中国は「トラ網」と呼ばれる大型の巻き網のような網を使った漁法による乱獲を行っている。トラ網漁法は、日本では禁止されている強い光度の集魚灯を付けた船を沖合に浮かべ、集めた魚を1000メートル以上の長さの網で囲い、文字通り一網打尽にしてしまう。魚の量が多過ぎるため網を引き揚げることはできず、ポンプで運搬船の船倉へと送り込み本国に輸送するのだ。
東シナ海で漁業をしていた長崎県の漁船がトラ網に囲まれてしまったという報告もあり、日本の漁民は、トラ網漁船団を見ると逃げるしかない。
中国は漁船団を使い、日本漁船を締め出し東シナ海の実効支配を進めているのである。
東シナ海および南シナ海で活動する中国の漁民の多くは、海上民兵であるといわれる。多くの漁民は軍事訓練を受け、その行動は当局の指揮下にある。