1ページ目から読む
2/2ページ目

“サプライズ選出”で課せられた役割

 夢にまで見たW杯は、日本を背負って、世界で闘うという喜びを感じさせてくれた舞台になりました。

 グループリーグではアルゼンチンのガブリエル・バティストゥータ、クロアチアのダヴォール・スーケルら世界的なストライカーを擁する国々と対戦しました。ギリギリのところで体を当てたりして好きなようにプレーさせなかった自負はあるのですが、結果的にバティストゥータ、スーケルには一ゴール奪われて日本は敗れました。ここぞのチャンスをものにしてチームを勝ちに導くその集中力というのは、国を背負う気持ち、ストライカーとしての責任感を強く持っているからなんだと感じました。ただ、彼らからはいい意味での開き直りというものも伝わってきましたが。

 私自身、思っていた以上に、自分の力を出せた感触はありました。結果的には三連敗に終わってしまいましたが、自信を深めることができた大会でした。

ADVERTISEMENT

 フランスから四年後、三十歳を超えていた私は○二年の日韓大会も代表メンバー入りを果たしました。このときはメディアに“サプライズ選出”と報じられました。

 フィリップ・トゥルシエ監督のもと、私の立場はレギュラーでも二番手でもありませんでした。初戦のベルギー戦で(レギュラーの)森岡隆三が負傷したときに、宮本恒靖が試合に出たときは正直、悔しい思いでいっぱいでした。

 でもあらためて自分の立ち位置を考え直したんです。日本が勝つために何をすべきか、チームのためにどう役に立つか、己に課せられた役割というものを。

 そう、自分のためじゃなく、日本のため――。哲さんの教えは、ずっと肝に銘じてきたことでもあります。チームのためにもっと働こうと、自分に言い聞かせました。

 ゴンさん(中山雅史)に相談しながら、二人でチームを盛り上げ、先頭に立って練習に打ち込んでいくことにしました。サッカーは十一人だけでやるものではありません。サブに控えるメンバーが心身ともにいい状態になっておくことが、チームの成功につながるカギだと思っていました。

 サブの選手は、クラブチームでは中心選手です。代表で一カ月間も試合に出られなくなるとモチベーションを維持するのが難しくなります。我々が先頭に立って、闘う姿勢を見せていくことで、チームを一つにしておきたかった。

 自分たちの思いが、チームメイトにも伝わったかなという手応えはありました。そしてこのチームは、フランスW杯で成し遂げられなかったグループリーグ突破を、成し遂げることができました。

今でも君が代を聞くと鳥肌が立つ

 あれから十二年。

 日本代表は六月、五大会連続出場となるブラジルW杯を迎えます。私は引退した今でもピッチに流れる君が代を聞けば、鳥肌が立ちます。日本を背負う気持ち、闘う気持ちが呼び起こされる感覚になります。

 日本の守護神である川島永嗣は名古屋グランパス時代の後輩ですが、彼の表情からは闘う姿勢が常に見てとれます。私が伝えたことを、彼なりに表現してくれていて、とても嬉しく、とても頼もしく思います。もちろん川島だけでなく、本田圭佑ら中心選手に感じることでもあります。

 昔、我々の時代はみんながみんなうまいというわけではありませんでした。でも一対一では絶対に負けないぞって、気持ちで闘うベースがありました。でも今はどちらかと言うとうまいレベルが上がっている反面、闘うベースが弱くなっていると感じるところもあります。

 ブラジルが何故、強いかと言えば、セレソンと呼ばれる代表チームのことを考えている選手が多いから。鹿島で一緒にプレーしたジョルジーニョ、レオナルドもそういった選手でした。国を背負って闘える選手の数が多ければ多いほど、チーム強度は増すというのが私の持論です。

 日本代表としての誇り、国を背負い、チームのために闘う意識……。ブラジルの地でこれらを力いっぱい表現してくれれば、自ずと結果もついてくるように思います。

(取材・構成 二宮寿朗)

【熊崎敬さんによる「サッカーワールドカップ 僕らが「日の丸」に感動するのはなぜなんだろう(2)」はこちら