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学ぶところは学ぶ

 でも、確かに良い面もあるんです。フランス人の食に対する強いこだわりは、日本人のそれよりも強い。そもそもフランスでは「食を給する」なんていう捉え方はないんです。「給食」という言い方は存在しない。彼らにとって食とは召し上がっていただくものであり、エンジョイするものなのです。ですから、給食や病院食であろうが、エンジョイしなきゃ駄目なんです。

 私は、それはそうだと思いました。我々と発想は違うのですが、賛同できる部分もあるわけです。だから、そこだけ受け入れればいいのです。いいものは素直に受け取る。これが受容力なのです。学ぶところは学ぶ。駄目なものは採用しない。相違点が10個あれば、そのうちの2~3個は面白いものがあるものです。私はそれを発見しようというふうに発想を変えたのです。それが、新しい発想を得ることにつながっていきました。

ローソンからサントリーへ

日本人だけ受容力がないと言うのはおかしい

 ただ、受容力が必要だと簡単に言うのですが、実際には相当な試練です。これは日本人だけが受け入れないというわけではなく、フランス人も受け入れないし、各国みんなが受け入れないんです。日本人だけ受容力がないと言うのではないのです。海外でもなかなか異なるものを受け入れてくれないんですから。

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 しかし、受け入れてくれやすい国民性を持った国があります。それがアメリカです。なぜなら移民の国だからです。ただ、彼らと同じようにしたいと思っても、日本はアメリカとは違う。ヨーロッパへ行くと、受け入れてくれやすいと思える国もあるのですが、全般的に言えば、いわゆる異質なものというのは、なかなか受け入れがたいものなのです。

 アメリカは異質なものを受け入れてきた歴史の結果として、シリコンバレーを始めとした新しいものを生み出してきました。まさにアメリカというのは、多様性の坩堝(るつぼ)であるわけです。だからこそ、新しいものがどんどん生まれてくるのです。

あきらめずに信じる

 アメリカを見れば、多様性はすごいと思うかもしれません。しかし、日本も中国もどこの国であれ、ほかの文化や生活様式が違う人たちが入ってきたら、違和感を持つのは当たり前です。やはり新しい価値観を持つことは、大変難しいことです。結局は、自分のビジョンや、今見えているものが広がることが面白いと体感させないと受容力は本当には身に付かないのです。

 日本企業の中でさえ、グローバル化への投資、人材育成といった問題は一筋縄ではいきません。解決するためには、一緒になって議論して、だんだん馴染ませていく。これは簡単なことではないんです。だからこそ、やり抜いて解決していく。ダメだと思っても、変えると信じることが大事なのです。多様性もそうです。異なることが、きっと面白いものを生む。あきらめずに、そう信じるのです。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。