「予想はしていたのですが、出版後、こんな母親はひどいという強い批判と、ここまで書いてくれて深く共感したという、両極端の声を沢山いただきました。障害のある子を持つお母さんの体験記は明るく前向きなものが多いですが、私はありのままの体験を書きました」
単行本出版時、物議を醸した衝撃のコミックエッセイ『娘が発達障害と診断されて… 母親やめてもいいですか』がついに文庫化された。広汎性発達障害の娘を持った母の激動の日々を赤裸々に描いた1冊だ。
「幼少期の娘は癇癪がひどくて、パニックになった時に尋常でない叫び方をしていました。その泣き声たるや近所から虐待と思われて、通報されるんじゃないかと思うほど。とくに娘が自分の頭を叩きまくっているのは見ていて一番辛かった。優しくなだめたり、厳しくしたり、ありとあらゆることを試してみましたが、どうにも収まりませんでした」
広汎性発達障害の幼児はパニック、自傷行為、感覚過敏といった症状に苦しみ、社会的な対人関係を築くのが難しい。主に先天性の脳機能障害が原因で生じるハンディキャップだが、身体的な障害と違って、周囲からなかなか理解されにくい。
「発達障害って、100人いたら100通りの症状や特性があるんです。例えば多動性障害の子はつねに落ち着きがなく走り回ったりしますが、周囲からみたら単に躾がなってないだけだと思われがち。周りがよかれと思って『うちの子も癇癪がひどいのよ、よくあることだから大丈夫よ』と声をかけてくれる程、逆に孤独が深まり話せなくなっていった」
子供とも夫や周りとも心が通わず、気づけばウツ状態に。チャット、浮気、新興宗教と現実逃避を重ねた。
「子供を産んだら一気に母性が備わるわけじゃない。やっぱり、目が合ったら見つめ返してくれるとか、あやしたら笑ってくれるとか、子供からの愛情もあって母性って育つものだと思うんです。娘からの愛を感じられないと親だって寂しい。1年くらいウツになり、ある時期は死ぬことが唯一の希望にすら感じました」
最終的に、夫から離婚届を突きつけられ、我が子を手放すことになった山口さん。理想の母親像とはほど遠い、どん底をのたうち回った記録からは一つの真っ直ぐな思いが伝わってくる。
「こんな駄目な母親だけど、子供には自分の人生をしっかりと生きてほしい。幸せになってほしい――。離れていても、その強い思いだけは尽きません」
不妊治療や流産を乗り越え、ようやく授かった娘のたからは「広汎性発達障害」だった。パニックになりやすく自傷行為をくり返す娘の育児に、専門家の助けを借りつつ必死で取り組むも、いつしか私はウツ状態になってゆく。追い詰められた人生のどん底で私が選んだ道とは――。絶望と再生の感涙コミックエッセイ。