昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2017/06/27

genre : エンタメ, 芸能

「おめでとう」の茶番劇

 家族を単位として登録される日本の戸籍制度では、男女が愛し合い、結婚し、ようやく日本の一部として認められます。だからこそありとあらゆる方法で結婚の素晴らしさや意義は流布され、結婚とは慶事、めでたい、異論は認めん!! とされます。須藤さんはそこを利用したのですね。AKBルールより、日本の戸籍ルールに自分をハメ込んだ。あの日司会の徳光さんが困惑しながら言った「みんなで言おう! せーのっ! 『おめでとうー』」、あれこそ日本の結婚制度の茶番そのもの。紙にハンコつきゃめでたくなる(彼女はまだついてないけど)。内部は騒ぐ、世間も騒ぐ、でも最後は「おめでとう」と言わざるを得ない、日本社会の「結婚」への謎の盲信をついてきたわけです。いや~見事なクリティカルヒットですね。

雨天のため、パブリックビューイングで「結婚宣言」を聞いたファンの思いはーー。 ©時事通信社

本当に「哲学」したのは――

 全て報道されていることから推察する、私の想像に過ぎませんけど、賢い須藤さんなら、AKBという狭い枠の中で順位を上げていくことよりも、爆弾投下で広く名が世間に知られるほうが、自分にとってメリットがあると踏んだのではないでしょうか。だって実際その通りですから。それはすなわちAKBがもはやマスではないことの証明にもなってしまうんですけど、もうそんなことはどうでもいいのかな。ただ皮肉なのは、「私は他の子とは違う」「私は賢い」「哲学とかにも興味あるし」という自意識を持った女性アイドルの人生かけて選んだ爆弾が、結局は日本の芸能史においては手垢まみれ感ありありの「突然の結婚宣言」だったわけで、最終的には大好きな哲学とは真逆の、マテリアルで世俗的な興味へと消費されていく。そしておそらくですが、まもなく忘れ去られてしまう……ということではないでしょうか。もしこれが噂通りに秋元先生のシナリオだとするなら、いかにも昭和のコンテンツおじさんが考えそうなこったなと納得ですけど。

 この騒動で最も「哲学」したのはおそらくファンの方々です。私事で恐縮ですが、私長らくベイスターズという野球チームを応援しておりまして、最近ではようやく「普通」のチームになりかけておりますが、本当にここ十数年つらかった。波乱万丈七転八倒艱難辛苦……全てを味わわされると、「得点の少ないほうが負けって、果たしてそうなのだろうか」「勝ちよりも負けが劣ると誰が決めたのか」など、勝敗を超えた世界を見ようとするんですよ。勝たせたい一心でたくさんCDを買ったアイドルが突然ステージで結婚すると言い出した。直視できないほどつらい現実に遭遇したとき、哲学は生まれるんです。そういった意味では、須藤さんよりファンのほうがよっぽど哲学者になる素質アリですわ。

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー