おにぎり頭の自画像でおなじみの南伸坊は、イラストレーター兼エッセイスト(本人は「イラストライター」を名乗っていた)として多くの著作があり、自作以外の本のデザインも手がける。1947年6月30日に東京で生まれた南は、きょう70歳になった。
南は高校卒業後、しばらくして、現代思潮社の創立した美学校で、グラフィックデザイナーの木村恒久と美術家の赤瀬川原平に師事している。
木村恒久からは、物事を「ひっくりかえして見る」ということを学んだという。そこで得た多くの発想のヒントは、後年の仕事に生かされた。代表作のひとつ『笑う写真』(1989年)は、美学校時代より20年後にして「木村先生へ提出したレポートだった」とも語っている(『私のイラストレーション史 14』)。たしかにこの本は、写真について、真実を写し取ったものとする見方を「ひっくりかえして」、その“ウソ”を考察してみせたものだった。いまや南のライフワークとなっている著名人の「似せ顔」もまた、写真について考えるうちにたどり着いたものだという。
もうひとりの師匠・赤瀬川原平からは、明治~昭和のジャーナリスト・宮武外骨などについて教えられた。「伸坊」というペンネームも、外骨主宰の『滑稽新聞』の絵師・墨池亭黒坊(ぼくちてい・くろぼう)の名にちなみ、本名の伸宏をもじったものだ。のち、1986年には、赤瀬川や建築史家・建築家の藤森照信などとともに「路上観察学会」を結成。赤瀬川の著書により世に広まった「老人力」という言葉も、もともとは路上観察の仲間内の話から生まれたものだった。物忘れなどの老化現象をポジティブにとらえ、老人力と言い換えたのは、物事を「ひっくりかえす」南らしい発想ともいえる。
南は、老人とは「いつも苦虫を噛み潰したようにして、『何も面白いことなんかねえや』っていうもんだ」と思い、少し前までは自分もそうなってやると考えていたという。それも最近では、「おじいさんになって、にこにこしてさ、まわりに感謝してられたら、すごくいいじゃん、ていう気持ち」に変わったとか(養老孟司との共著『老人の壁』毎日新聞社)。これまで他人とは違う視点で、面白いものをずっと追い続けてきたのだから、年をとってもいつもニコニコというのが自然なのかもしれない。