2月4日、手術直後の女性患者の胸を舐めたなどとして、準強制わいせつ罪に問われ、一審で無罪判決となっていた男性医師(44)に対する控訴審初公判が、東京高裁で開かれた。
医師による性的暴行事件は爆発的に増えている
男性医師は傍聴席に座る支援者たちに笑顔を浮かべて一礼し、裁判官に職業を問われて「医師です」と答えた。
公判の冒頭で男性医師の主任弁護人が事件概要を説明した。
「ここに犯罪と呼べるものは存在しません。せん妄という医学的な症例があるだけです。満室の病院で、医療関係者が入れ代わり立ち代わり出入りする中、手術を終えたばかりの医師が患者の胸を舐めた上、マスターベーションに及んだという事件。こんな奇怪な事件はない」
この日は検察側証人として、司法精神医学の専門家でもある獨協医科大学の井原裕教授が出廷した。
「事件当時、被害者のA子さんはせん妄状態であったとは考えられるが、幻覚があったとはいえず、A子さんの証言は信用できる」
井原教授は、世界的に見れば医師による性的暴行事件は珍しくなく、2016年以降、爆発的に増えているため医師界が揺れていると指摘。その説明を男性医師は、椅子に深く腰掛けて、鼻を触りながら聴いていた。
「本物のせん妄のときは幻覚さえも覚えていない」
事件当日の経緯を説明しよう。女性は14時45分に手術室を出て、病室に行くときに、「ふざけんなよ、ぶっ殺してやる」と言ったとされる。そのことを女性は「言った覚えはない」と説明している。
この点について、井原教授は「当時、女性は過活動型せん妄状態にあったと言える。人間の体はアルコールと同じで、麻酔も徐々に覚めていく。それが27分後の事件時のA子さんは、低活動型せん妄に下がっていたと考えられるから、幻覚が起こるようなグレードではない。一審のせん妄の鑑定は、定義を非常に広くとっていて、アルコールで言えば、ホロ酔い状態の人も含むような感じです」と述べた。
その後、A子さんは看護師に「痛いですか?」と聞かれ、「痛いです」と答えている。看護師が14時55分には「覚醒良好」とカルテに書いてしまうレベルにあったということだ。
その後、男性医師から乳首を舐められたとするタイミング直後の15時12分には「たすけあつ」「て」「いますぐきて」というメッセージを上司にLINEで送っている。
「スマホがどこにあるか探して、これだけ正確にLINEを打てている。作文じゃない。迫真に富んでいる。完全なせん妄状態なら、こんなメッセージはあり得ない。非常に冷静な行動を取っていて、もはやせん妄状態じゃない。こんなときに幻覚は見ないし、本物のせん妄のときは幻覚さえも覚えていない」(井原教授)
男性医師はこの間、真っ赤な顔をして法廷内に映し出される大型スクリーンのパネルを見ていた。