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男性医師は女性患者の胸を舐めたのか、それとも“せん妄”による幻覚だったのか

手術後わいせつ事件――控訴審で司法精神医学の専門家が語ったこと

2020/02/05

「高齢者と30代の健康的な女性を同一視すべきでない」

「A子さんは病室から出て行った男について、『今のはドクターですか?』と尋ね、『はい、そうです』という会話を看護師としている。意識混濁が下がり、目の前の雲がなくなって、どんどん晴れてきたという状態でしょう。LINEを打ったときは現実の世界にいたのに、また幻覚の世界に飛んでいって、また一瞬で戻ってくるなんて、そんなことはあり得ないし、非常に不自然。性的な夢を見たというのなら、夢は覚めたら現実に戻るでしょう。それが夢というものです。夢の続きで行動することなんか、絶対にない。A子さんが幻覚を見ていた可能性はかなり低いし、ほぼないに等しい」(同前)

 男性医師は、井原教授が話をするたびに眉をしかめていた。

 しかし、弁護側は「私たちは分かりやすさより、正確さを求めている」と反論。一審で採用されたせん妄に関する論文について見解を問われると、井原教授は一刀両断でこう語った。

「この論文は参照にする必要はない。平均年齢70・2歳の、ガン治療を受けてお見送りの緩和ケアを受けているような人たちの症例でしょう。高齢者の方は合併症も多いし、既往歴もある。弁護士の先生たちは一審から、高齢者医療のせん妄の例ばっかりやっているでしょう。A子さんは30代の健康的な女性で、何の合併症もない。こういう人たちと同一視するべきではない。こんな論文を読んでいるのは時間の無駄。事実を見誤らせ、ミスリーディングするだけです」

現場となった足立区内の病院 ©諸岡宏樹

警察が駆け付けた途端、逃げるように病院を後にした

 最後に12人の弁護団を率いる主任弁護人の高野隆弁護士が質問した。

 高野弁護士は、最近ではカルロス・ゴーン被告の弁護人を務め、これまでに16件の無罪判決を勝ち取ったことがあるという日本屈指の辣腕弁護士だ。

「中国での実例として、麻酔科の医師が27歳、29歳、31歳の女性を手術し、術後に性行為のような行動を示したというものがある。付き添いの人が『それは違う』と言っても、全然受け入れない。『強姦された』と警察を呼ぶことになり、医師はモニターの画像を提出した。これは先生の主張とは矛盾するのでは?」

「それは背景を見てみないと分からないです」

 本件の男性医師は警察が駆け付けた途端、逃げるように病院を後にしてしまった。被害者のA子さんは「何もやっていないのであれば、私のところに来て、せん妄の説明をし、『誤解だよ』と説明したはずじゃないですか」と憤る。A子さんによれば、男性医師は一審の頃から、法廷で対峙しても一度も目を合わせることはなかったという。

 次回は弁護側の証人が出廷する。弁護側は控訴審も「科学の法則にのっとり、手堅い判決」(高野弁護士)を手にすることができるだろうか。

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