人が判断をくだすとき、先入観や偏りから陥りがちな「心理バイアス」がある。経営学、認知心理学、行動経済学から導き出された101の心理バイアスの中から、壊滅的な事態を引き起こしかねない「ブラックスワン・黒い白鳥の罠」を紹介する。
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「自然災害は極めて低い確率でしか起こらない」と思ってしまう理由
ブラックスワンは文字通り「黒い白鳥」のことで、「そのようなものは存在しない、あるいは極めて低い確率でしか存在しえない(起こらない)」と思われているもののことを指します。
ブラックスワンが大きな問題になるのは、金融業界や自然災害です。たとえば金融業界では、リスクとは平均からのバラつきのことをさし、基本的に正規分布の世界を前提にしています。このような世界では、リーマンショッククラスの悲劇は、数十年あるいは100年に1回起こるかどうかという計算結果になります。 しかし現実の金融の世界では、100年に1回も起こらないはずのことが、もっと頻度が高く起きてしまっています。
つまり上の図に示したように、極端な出来事は、正規分布以上に実際によく発生するのです。その正確なメカニズムについては原因が多岐にわたり、また不明な部分も多いため一概には言えませんが、経済や自然現象といった、複雑な要素がさまざまに絡み合っている世界では、工業製品を作るときのような単純な正規分布にはならないのです。 これを見落とすとどうなるでしょうか? 自然災害であれば、本来取られるべき施策が取られなかったり、必要な予算が低めに抑えられたりします。