リアルな日常は読み始めたら止まらない!
男性より女性の方が、日記が友人代わりのように心を打ち明けて書いている印象です。Kさん(女性・10代半ば・高校生)の20年くらい前のノートには、K先生への熱い思いが連日綴られていました。
「好きです、ずっと好きでした(チョコを差し出しながら)。たぶん、初めて会ったときから少しずつ好きになって、今はもう大好きです!!」とほとばしる思いをぶつけたり、「電話しちゃおっかなー(口から心臓でちゃうくせに)」「触ってみたいなー(どこに!?)」と、ときには自分にツッコミを入れたり、先生の薬指の指輪に嫉妬したり、乙女心は変わりやすいです。
人に見せない設定なのにエンターテインメント性があって読ませます。そして今の女子中高生の言葉遣いと比べると、ノリも含めて時代の流れを感じます。
O夫妻(男女・20代・会社員等)の二人分の日記は、書いた時期は重なっていないのですが、夫はテンションが低く内省的、妻はその時その時で好きな男性芸能人(w-inds.からヨン様、KAT-TUNまで)の写真を貼りまくっていてテンションが高めです。正反対だからこそ惹かれ合ったのでしょうか……。
あるギャンブラー(男性・50代・会社員)の10年日記は、パチンコやオートレースでの勝負の日々が綴られていて、最後にはだんだん減っていく預金通帳も貼られていました(180万円が30万円に……)。こちらは遺品だそうで、しめやかな気持ちになります。
たしかに、知らない誰かのパーソナルな肉筆記録を読んでいると、頭が少し重くなった感が。
でも最後に、このコレクションのきっかけとなった、Iさん(男性・20代前半・大学生)を読んだら、POPで軽い感じのネタが書かれていて、少し軽くなりました。
「ラグビーはタタタタタタってボール盗んで逃げてる感がある。しかもチームで。筋肉質青春窃盗団」「思ったより時間経ってて『もう10時でっせ』と言うと『有刺鉄線』に聞こえる」……この誰に見せるでもなく自分につぶやいている感が味わい深いです。
人の手帳や日記を読むと、人類の集合的無意識につながる感じがします。背伸びしなくても、映えを気にしなくても、ただ生きているだけで良い、そんな人間としての基本に立ち返らせてくれます。
日記の念で少し重くなった心身を、ギャラリーのかわいい作品と、隣のアトリエの陶芸家のフレンドリーなおじさんが癒してくれました。
記事提供:CREA WEB
手帳類図書室
所在地 東京都渋谷区代々木4-54-7 ギャラリー「Picaresque(ピカレスク)」内
開館時間 11:00~18:00
開館日 毎週 木・金・土・日曜、祝日(※時期により営業日時は変動)
利用料金 1時間 1,000円
https://techorui.jp/
辛酸なめ子(しんさん・なめこ)
東京生まれ。漫画家・エッセイスト。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。『ヨコモレ通信』(文春文庫)『女子校育ち』(ちくまプリマ―新書)『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研プラス)など著書多数。