「文化はコンプレックスから生まれる」という仮説のもと、天然パーマ、背が低い、下戸、ハゲ、一重(ひとえ)、遅刻、実家暮らし、親が金持ち……など10個のコンプレックスに向き合い、数々の文献を読み解きながら考察した武田砂鉄さんの最新評論集『コンプレックス文化論』。ミュージシャンやデザイナーなど、文化を生み出してきた表現者たちへのインタビューもたっぷり収録した本書の発売を記念して、武田さんが「本当は、本の中でもこの人と語り合いたかった!」と熱望していたジェーン・スーさんとの対談が行われました。スーさんの誘導によって明かされる、武田さん自身のコンプレックスとは?
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武田 以前、インタビューさせてもらった時に「東京ジャイアン」の話になりましたね。東京生まれ・東京育ちのスーさんは、なにかと東京都内で過ごし、東京のことしか知らず、一人旅に出かけようとすら思わない、と。
スー 一人旅の欲求自体があんまりないんですよ。そもそも旅行ってものに熱がない。この間、8年ぶりの夏休みをとってバリに行ったんですけど、基本的にホテルの中でずーっとのんびりしてるだけ。だから多分、死ぬときに後悔するんだろう、って思うんですけど、歴史的建造物などの文化に対する興味が著しく低い。
武田 海外への興味って、学生時代に「自分、興味持ってる」アピールできるかどうかで決まるところがありますよね。大学時代、猛スピードで海外に目覚める奴が出てくる。東南アジアに一人旅、アメリカへ短期留学、そういう旅を先にこなされて、こっちの「海外に興味ある」デビューがものすごく遅くなった。聞かれてもいないのに、「俺、海外とか、そんなに興味ないし」を装う数年間がありました。
スー どこかに行って城を見るとか、もっと極端な話、普段の生活で街を歩いていると、坂の入り口に「この坂の由来」が書いてありますけど、歴史好きな人って、必ず読みますよね。私にはその関心が一切ない。商業ベースのモノしか好きじゃないんですよ。だからアメリカのエンターテインメントが好きなんだと思う。
武田 これでどれくらい稼いだかが可視化されてる感じ。
スー 京都のような街にも興味が持てない。「倉敷?」「フーン」みたいな。
武田 倉敷フーン(笑)。「東京ジャイアン」の話からコンプレックスの話に繋げると、自分も郊外とはいえ東京育ちなので、上京することに異様なまでの憧れがあります。ベタな恋愛映画のラストで高校生カップルの片方が上京することになり、無人駅のホームで別れるというシーンを見かけると、「うんうん、わかるわかる」って涙をこぼす。東京育ちなのに。「故郷に大切な誰かを置いてきた」シチュエーションへの憧れ。
スー 「上京したことないコンプレックス」っていうのはありますね。だからやっぱり最終的に、ニューヨークを目指すと思うんですよ、私。アメリカに渡ったピースの綾部さんを見て「わかる!」って思った。こうなりたいという夢とか目標はまるでないんですけど、最終的にアメリカに移住したいというのはあって。自分で言ってて本当にバカかって思うんですけど、ロスかマンハッタンに住みたいんです。20歳の時に1年間、アメリカのミネアポリスっていう、プリンスの出身地に留学していました。当時、私は「体が大きい」というコンプレックスを持っていたんですけど、ミネアポリスに来て「あ、生きてていいんだ」って思えた。日本でずっと異形感を抱えて生きてきたんです。アメリカって、こんなにノビノビ生きられるんだって感覚があった。あれが忘れられない。
武田 自分の体の大きさにかなり強いコンプレックスがあったんですね。
スー 幼稚園、小学校、中学校とずっと大きくて、それこそ背の順に並んで「前にならえ」をする時は必ず一番後ろでしたから。小さくてかわいいものに対するコンプレックスは、思春期が終わっても……というか、未だに根強くありますね。