(2)より続く 

 武田砂鉄さんの最新評論集『コンプレックス文化論』刊行記念対談、第3回。3大コンプレックスを明かす武田さんを、ジェーン・スーさんがさらに深堀りします。

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『コンプレックス文化論』(武田砂鉄 著)

スー ところで3大コンプレックスを武田さんの中でリストアップすると何になりますか?

武田 まず、「控え」と「多摩」と……。(※武田さんは多摩在住の中学生で、サッカー部の控え選手だった。第2回参照

スー 多摩って、23区の「控え」みたいですもんね(笑)。

武田 「控え」と自覚した上で苛立ってましたね。東京で降雪予報が出ると、テレビ局は、あまり知られていないキャスターを八王子駅前に飛ばして、「八王子、そろそろ降ってきましたので、間もなくするとそちらも……」って告知してきますよね。都心から多摩の中学に通っていた同級生が、家を出るときは降ってなかったのに学校の近所では降ってるの、「マジうぜえ」ってよく言っていた。てめぇの家の場所の天気予報じゃなくて、こっちの天気みろよ、と思ったもんです。

スー あと一つは?

武田 「モテなかった」。

スー 最後にズバッときましたね(笑)。

武田 でも当時の頭ん中では、「控えで、多摩なので、モテない」だったんです。

スー ああそうか、三題噺になってたんですね。

©文藝春秋

武田 改善すればパーフェクトにモテるってイメージがありました。多摩じゃなくて23区に住んでいたら俺はモテただろうし、控えじゃなくてスタメンになれば、たちまちモテただろうと。でも本当は、23区に引っ越してスタメンになってもモテなかったはずだから、「たられば」を残したままで良かったな、と今では思いますね。23区在住のスタメンでモテなかったら、塞ぎ込んだ人間になっていたかもしれない。

スー コンプレックスって、ほぼほぼイコール可能性ってことなんですね。

武田 そう思いますね。コンプレックスを抱えたままにする、って、コンプレックスに潰されるってことじゃなくて、嗜む、みたいな感覚に近い。

スー 「俺、まだ本気出してないし」とか「世が世ならうまくいってた」ってことですよね。コンプレックスって、「世が世なら」ですよね。

武田 そうですね、「俺はな、もしアレだったらな、こうなれてたんだからな!」っていう強気。