「文化はコンプレックスから生まれる」という仮説のもと、ミュージシャンやデザイナーなど、表現者たちへのインタビューを通じて考察した武田砂鉄さんの最新評論集『コンプレックス文化論』。本書の発売を記念して行なわれたジェーン・スーさんとの対談の最終回です。
◆◆◆
武田 そういえば、昨日の夜まで高松にいて、寝台列車のサンライズ瀬戸で今日の朝、東京に帰ってきたんですけど。
スー ふー、お疲れ様です。
武田 その個室の中でスーさんの新刊『今夜もカネで解決だ』を読んでいたんですが、このでかい図体で、体が伸ばせないような状態で読んでいたんで、体が凝りに凝りました。マッサージなどリラクゼーションの店に通いつめた本を読んで体が凝る、という本末転倒(笑)。様々なお店に興味を持ったものの、なぜか昔から他人に後ろに立たれることが苦手なんで、マッサージってものに、ほぼ行ったことがないんです。
スー 後ろに立たれること自体が?
武田 1回だけ上海でマッサージを受けたことがあって。性的なサービスがある店ではなかったんですけど、ちょっと待て、股間周辺へのマッサージが入念すぎるのでは、この先も可能ってシグナルなのか、いいよそんなの、との疑いが抜けず……それ以降、一切シャットアウト。全身バキバキに凝ってますけど、行けない。
スー マッサージ行かないって、結構びっくりです。極楽なのに!
武田 スーさんの本を読んで、つくづくそう思いましたね。
スー 合法の極楽ですよ。触られるのも嫌なんですか?
武田 男性用サービスへの延長を期待している人だと思われたくなくて行きたくないんです。
スー そんなのないですよ!
武田 どこに行けば健全な店なのかがちっとも分からないんですよ。街中でマッサージ店の看板を見ながら、行く気もないのに「これ、どっち?」って思ってしまう。確実にその延長サービスがない店を教えてください。
スー ない店のほうが多いですよ、基本的に。何とか整体院っていうおじいちゃんがやってるようなところに行けば絶対にないですから。
武田 ああ、なるほど。「あわよくば」を望んでいると思われるのが嫌なんですよね。
スー そこはわかるんですけど。本にも書きましたけど、自分がどんな状態であれ、お金さえ払えば受容してもらえるっていう、こんなシステムはないので。
武田 その合法性には納得しましたね。
スー 自分の体が具合悪いと人に当たったりしますからね。イライラしない時間を作るために行く感じですね。どんなコンプレックスがあろうとも、お金さえ払えば絶対に受容してもらえるっていう意味で、マッサージとかリラクゼーションのサロンって私にとっては必要なんですよ。