三菱商事、ソデックス、ローソン、サントリー……。私は社会人になってからこれまで、商社、外食、小売り、製造業と、さまざまな場所で仕事をしてきました。私がそこで何を考え、なぜ挑戦し続けることができたのか。現在までのキャリアの中から、本当に役立つエッセンスをこれからお話ししたいと思います。

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ビッグデータは仕事に使えるか

 企業において、ヒューマンな部分と、テクノロジーの部分をどう使い分ければいいのか。それには、仕事が反復的で単純に標準化できるものは機械に全部任せてしまう方法と、技術をうまく仕事に適用させて、仕事のやり方を変えてしまうという2つの方法があります。

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 ただ、今本当に私たちがやらなければならないのは、人と人との接点づくりです。なるべくお客様のところに足を運び、接点をつくって、課題をうかがうということです。そして、その課題について、どんな背景があるのか、分析してみるのです。

 そんなとき、もしビッグデータでうまく仮説を立てることができれば、それに対する解答も早く出せると思うかもしれません。しかし、ビッグデータが本当に通用するかを見極めるには、実は現場を見ていないとできないのです。データのように本当に人間が動いてくれるのかどうか。そこを見極めるのは感性の問題であり、感性の掛け算で見つけるものなのです。

 例えば、お客様はどういうふうに買っているか、どういう表情で買っているか、そのときの世相はどうか、そんなことはAIにはなかなかわからないわけです。もちろん部分的な課題解決はAIがやってくれるでしょう。でも、感性的な部分はサポートできないのです。

AIがいくら発達しても大切なものとは ©文藝春秋/石川啓次

 データだけを見て、仮説を立てても答えは見つかりません。むしろデータを検証するために、自分で現場を歩かなければならないのです。データは生産性を上げてくれますが、最後のところは人間が動かなければならないのです。

人間性、感受性を磨くには

 本当に面白い仮説だと判断するのは、最終的には人間です。その意味では、私たちは、これからより人間性を磨かなければならないでしょう。それは感受性を磨くと言い換えてもいいかもしれません。これからはデジタルに対しても、“感じる”ということをもっと重視していくべきなのです。

 それには自然ともっと接したり、恋愛したりすることでもいい。そうした人間の基本的な要素が非常に重要になってくると考えています。

 だからこそ、ときにはスマホを休んで、各人が直接コミュニケーションをとることも必要です。そうしなければ、人間が本来持っているパワーはどんどん失われていきます。いい機械を使うのもいいことですが、何事もバランスをとることが重要なのです。それが今、テクノロジーのほうに行き過ぎているように感じています。

想像する力を養う

 その意味で、我々はもっとリベラルアーツを強化しなければなりません。例えば、歴史や文学を勉強し、想像する力を養うことです。想像する力を機械に頼っていたら、人間の力はますます弱くなってしまいます。夢を描くことは、自分でやらなければ意味はありません。人間は夢物語をどんどん考えることが仕事であり、その実現のために機械を使えばいいのです。今、世界史ブームが続いていますが、それは人間がリベラルアーツを求めているからと言えるのではないでしょうか。

 大学でリベラルアーツを学び、大学院で専門知識を学ぶ。そんなアメリカのやり方が正しいかどうか答えはありません。しかし、いずれにせよ、日本はリベラルアーツをもっと強化していく必要があるのではないか。現在のようにAIの時代になったからこそ、人として感動するものや歴史・文化・宗教といったものを研究することが必要なのではないかと思います。

聞き手:國貞 文隆(ジャーナリスト)

新浪 剛史 サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長

1959年横浜市生まれ。81年三菱商事入社。91年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2000年ローソンプロジェクト統括室長兼外食事業室長。02年ローソン代表取締役社長。14年よりサントリーホールディングス株式会社代表取締役社長。