スコット・ピオリ氏との運命の出会い
加えてサワーズは、2012年から2016年にはカンザスシティにあるバスケットボールチームで小学生相手のコーチも務めていた。そしてここで運命的な出会いを果たす。教え子の中に、前カンザスシティ・チーフスGMのスコット・ピオリ氏の娘がいたのだ。
ピオリ氏は、サワーズの娘への指導に感銘を受け、自身が2014年にアトランタ・ファルコンズのアシスタントGMに招聘されると、2016年にはNFLの多様性プログラムを利用して、サワーズにインターンコーチをオファーしたのだ。
ピオリ氏は当時のことについて、こう振り返る。
「ようやく決断する時がきたんだ。当時、ファルコンズの攻撃コーディネーターを務めていたカイル・シャナハンも、彼女をオフェンスサイドでコーチさせることに100%同意していた」
ピオリ氏を信頼するサワーズに断る理由はなかったという。そして、オフシーズンからトレーニングキャンプまでの9か月間、インターンながら夢であったコーチ業の第一歩をNFLという最高峰の舞台で踏み出したのだ。
さらに翌2017年に転機が訪れる。
シャナハンがサンフランシスコ・49ersのヘッドコーチに就任すると、サワーズは6月に同様のプログラムで、チームの一員に採用。同年の秋には1シーズン限りながら攻撃アシスタントコーチに就任した。
男性プロスポーツチームで、初めてLGBTQを公表したコーチ
そしてサワーズは、このタイミングで大きな決断をする。
同性愛者であることを公表したのだ。
学生時代、コーチを断られた苦い思い出がフラッシュバックしたかもしれない。それでも、彼女は自分に正直に生きることを選んだ。学生時代の経験について、「あの経験がなければ、今日の私はこの場にいないと思います」と話したように、サワーズはネガティブなこともプラスに変えている。サワーズは米メディアのインタビューに対してこう話している。
「人生で最も大切なことの一つは、自分に対して正直であること。NFLだけでなく、どんな世界でもLGBTとして同一視できない人がたくさんいます。彼らは性的志向について公表できずに苦しんでいます。私たちが人種、性別、性的志向、宗教などの多様性を受け入れる環境を作れれば、多くの人を抱えている苦しみと重荷から解放できます」
実はNFLでは、2014年に自らがゲイであることを公表し、リーグから姿を消した選手もいた。そんな姿を見て、サワーズはNFLにもLGBTQを公表できずにいる人間が多くいると信じていた。肩身が狭い思いをしている同胞を、苦しみから救うため、勇気ある行動に出たのだ。こうしてサワーズは、NFLだけでなく、男性プロスポーツチームで初めてLGBTQを公表したコーチとなった。
エースは「今までで最もクールなコーチの一人」と絶賛
そして2018年、サワーズはついにフルタイムのコーチとして、49ersに迎え入れられた。NFLでは2016年にバッファロー・ビルズがカスリン・スミスをスペシャルチームのコーチとして雇用して以来、NFL史上2人目のフルタイム女性コーチとなった。
そして、NFL4年目の2019-2020シーズンに、スーパーボウルに出場したNFL史上初のフルタイム女性コーチとなった。NFLでは2019-2020シーズン、サワーズ含めて8人の女性コーチがおり、そのうち4人がフルタイムワーカーだ。