全米を熱狂させるスポーツ、アメフトの世界で成功するには時間がかかる。もしかして、成功しないかもしれない。

 それは、選手もコーチも同じことだ。

 しかし、わずか4年目で成功をつかんだ女性コーチがいる。彼女の名は、ケイティ・サワーズ。第54回スーパーボウルに出場したサンフランシスコ・49ersの攻撃アシスタントコーチだ。彼女は、スーパーボウルにフルタイムコーチとして出場したNFL史上初の女性コーチになった。

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女性コーチとして初めてスーパーボウルに出場したケイティ・サワーズ(写真右から3人目)

子供時代の自分へ「あなたの夢は叶います」

 そしてもう1つ、彼女が注目を集める理由がある。

 それはサワーズが、自分が同性愛者であると公表していたことだ。この性的志向が彼女自身を苦しめた時期もあったという。しかし、自分を信じ、周囲を信じることで、男性スポーツの世界で女性が輝ける場所を作った先駆者となり、今回のスーパーボウルで歴史を作った。そして、すべてのスポーツを愛する女性から、公表できないLGBTQまで多くの人々に勇気を与えている。

 スーパーボウル前に配信されたマイクロソフト社のCMで、サワーズは子供時代の自分へ宛てた手紙を読んでいる。

「私はいつか本当のフットボールの一員になると願っています。お飾りでここにいるわけではありません。チームの勝利のためにここにいます。私はこの少女に、自分を持ち続けるようにいいたいです。あなたの夢は叶います――」

「性的志向」を理由にコーチ業を断られた失意の日々

 カンザス州の田舎町で育ったサワーズは、多くの子どもたちと同様に双子の姉妹や、近所の友達とフットボールをプレイし、フットボールに情熱を傾けた幼少時代を過ごした。その後、インディアナ州にあるカレッジに進んだサワーズは、サッカー、バスケットボール、陸上競技に打ち込んだ。

 そしてこの頃、自分が「同性愛者である」と両親にカミングアウトしたという。両親からの反応は、「愛情を持って受け入れてくれた」と、本人はメディアのインタビューで話している。

 

 カレッジで自身の競技生活が終わるに際し、サワーズは小さな頃からの夢に挑戦しようと考えたという。そして、「バスケットボールのボランティアコーチをしたい」と学校側に打診した。だが、学校側は彼女の性的志向を理由にその申し出を断った。「性的志向を理由に判断されたのは初めてのことだったので、あの時は本当にショックでした」とサワーズは当時を振り返る。「いつかフットボールのコーチになりたい――」。そんな夢を持っていた彼女は、ひどく落ち込んだという。

 コーチ業を断られたサワーズは、失意のどん底だった。だが、フットボールへの想いは再び彼女の情熱を呼び起こした。「コーチが難しいのなら」と、サワーズはアメリカの女子フットボールリーグであるウィメンズ・フットボール・アライアンスに挑戦し、8年間プレイ。2013年には女子アメリカンフットボール米国代表の一員として、女子ワールドカップの優勝も経験した。