サワーズの仕事は、チーム内から多大なるリスペクトを得ている。サワーズがコーチする49ersのレシーバー陣や司令塔は、こんな風に彼女を評する。
スーパーボウルでの優勝経験もあるベテランWRエマニュエル・サンダースが「今までで最もクールなコーチの一人さ」と語れば、エースQBジミー・ガロポロも「彼女は素晴らしいね。元気だし一緒にいて楽しい」と絶賛する。
性別、人種、肌の色、髪の毛の色、目の色、経歴などは、彼女にとって大きな問題ではないのだ。すべてを自分の美しさであると受け入れ、常に自分を信じることこそが、サワーズの想いなのである。
レシーバー陣がナイスキャッチを連発
スーパーボウル当日の2020年2月2日(日本時間2月3日)。
決戦の舞台となったマイアミの空は、前日の大雨から一転して、スーパーサンデーを祝福するかのような快晴だった。ハードロック・スタジアムに集まったカンザスシティ・チーフスとサンフランシスコ・49ersのファン、そしてフットボールジャンキーたちは試合開始を待ちきれないかのようにチャントを叫びお互いを煽る。
この時点から、ややチーフスファンの声が大きいように感じた。49ersファンは、よそゆきのような雰囲気を出していた。18時30分から国家斉唱、コイントスのセレモニーなどが行われ、いざキックオフ。
前半は、お互いの手の内を探るかのような展開で10対10の同点。そして第3Q、49ersはフィールドゴールで3点を勝ち越すと、インターセプトで攻撃権を奪取した後のドライブでは、ディーボ・サミュエルやケンドリック・ボーンといったサワーズが指導したレシーバー陣がナイスキャッチを連発。最後はRBラヒーム・モスタートがゴール前1ヤードでエンドゾーン内に力づくで押し込みリードを10点に広げた。
ここまでは完全に49ersペースだったが、チームは6度目の美酒を味わうことができなかった。チーフスは、若き24歳のQBパトリック・マホームズに指揮された攻撃陣が第4Qに爆発。6万人以上を収容したファンのほとんどがチーフスファンかと思わせるほどの圧倒的な応援もあり、最終Qで21点を奪い31対20で50年ぶりのスーパーボウル優勝を成し遂げた。
多くの人に大きな勇気を与えるLGBTQのロールモデルに
サワーズは夢の舞台には到達したが、スーパーボウル優勝というさらなる高みに行くのは、来年以降に持ち越された。スーパーボウルの数時間後に投稿したTwitterでは、すでに前を見据えるメッセージを投稿している。
「みんな本当にありがとう。シーズンは私たちが望んだようには終わらなかったけれど、これからも前に進み続けます」
そして画像には、「成功があがりでもなければ、失敗が終わりでもない。肝心なのは続ける勇気である」というウィンストン・チャーチルの名言が書かれていた。
Thank you, Faithful. This season didn’t end as we would have liked but we will keep moving forward . #FallForward #49ers pic.twitter.com/2iV8TPDH9U
— Katie Sowers (@KatieSowers) February 3, 2020
自分に正直であり、周囲にも自分が誰であるかを告白したサワーズ。彼女は女性だけでなく、LGBTQのロールモデルとして、多くの人に大きな勇気を与えている。
今年はスーパーボウルリングを指にはめられなかったが、来年以降にスーパーボウルを制した女性初のコーチになり、NFL初の女性ヘッドコーチ、初の女性GMとなる日も、そう遠くはないのかもしれない。
彼女が自分に正直に生きて、続けていく勇気を持っている限り。
写真=田口有史/Yukihito Taguchi