聞き覚えのある「ブラック企業」
電話をかけてきたのは、声の感じからして若干年配の男性のよう。「『拝』様でよろしいですか?」と尋ねてきたのは女性だったので、この年配男性のアシスタントかなにかだったのかもしれません。
――よかった。あの人じゃなくて。ホッと胸を撫で下ろしました。
そもそも私がコンサル業界について全く知らないので、業界地図から説明してくれます。まず教えてくれたのは、マッキンゼー、ボストンコンサルなど外資、日立コンサル、クニエなど内資の区別。コンサルと言えば外資のイメージが強く、クニエなんてこれまで聞いたこともなかったので「そんな女の人の名前みたいなコンサルあるんだ……!」というアホな感想を抱きながら話を聞きます。
次いで、戦略系、総合系、IT系、監査法人系など、どういった分野に強み・特徴を持つのか。そして、それぞれどんな人材を求めているのか。
全然知らない企業名ばかりですが、耳にしたことがある名前もちらほら。中には就活真っただ中の学生のとき、ブラック企業として名を馳せていた会社も――。
思わず尋ねます。
「すみませんが、今ご紹介のあった●●や△△は、私が大学生の時ブラック企業と噂になっていた記憶があるんですが」
男性は朗らかにこう返してきました。
「キヨシマさんが学生のときは、コンサルなんて全部ブラックだったと思います」
ひえ~。業界全部ブラックって、どんな業界やねん! 厳密な意味での「ブラック企業」ではなく、軽口で“ブラック”と言っているのだと信じたいですが。
「ですが、国のメスがモロに入ったから、各社今ではワークライフバランスに気を使うようになっています。それに、女性を増やそうとしていますしね。まあ、外資は従来通り、午前様が週に何度もある感じですが」
何でしょう。やはり、新聞記者として殺人事件の容疑者のいる山にこもったり、イノシシ追っかけたりしてもピンピンしてた体力を使って馬車馬のように働け! お前ならできる! ということで声をかけてきたのでしょうか、このエージェントは。
私にピッタリの仕事かも!?
そんなことを考えていると、やっと「私に紹介したい仕事」という本題に入りました。
「今、コンサル業界では行政を相手にした仕事が増えています。ですが、役所というのは民間企業とはまたちがう世界です。そこを知っている人材を探しているんです」
話がようやく見えてきました。官公庁回りの経験をいかして仕事をしないか、というお誘いだったのです。
環境省、厚労省などなど。業務改善のためにコンサルを入れる動きがあるとか。たしかに、そういう仕事なら思うところはあります。
というか、手当たり次第に企業を受けてみる転職活動をしてわかったことですが、公共性・社会性がある仕事のほうが自分の興味・関心に合致しています。
こんなところに転がってた! 私の興味・関心にピッタリの仕事! これまでコンサルって何やってるかわかんないし、「賢い人たちが情報弱者から金巻き上げてるんでしょ。怖いわ~」とか妄想していてごめんなさい。
「『拝』様女子」との邂逅で感じた不安なんかすっかり忘れて、さっそく応募することにしました。取り急ぎ、官公庁相手の仕事を積極的に取り扱っているという5社への応募を依頼します。
一週間後、エージェントから連絡が。
「該当ポジション募集がないため、お見送りとのことでした」
え!? どういうこと!?
募集かけてないところに出して、落ちちゃったの私!? っていうか、募集かかってないところに出さないでよ……!
「このまま他社もトライしてみますか?」とエージェントさんから問い合わせがありましたが、丁重にお断りしました。このままここに任せていては、受かるものも受かりません。
クソ。やっぱり「『拝』様女子」の上司も「『拝』様女子」ぐらいわけわかんない奴だった!
間もなく無職1周年。そんな危機的状況のさなか、完全に時間を無駄に使ってしまいました。
キヨシマの転職活動メモ
一、 ヤバいと直感したエージェントは、ホントにヤバい。自分の直感を信じよ。
※この連載は、新聞記者として5年働いたキヨシマによる、「脱力系」転職活動記です。書かれていることは全て現在進行形のノンフィクションです。