当事者を尊重するリンクワーカー制度
私がスコットランドでうらやましいと思ったのが、リンクワーカー制度です。これは国の制度として決められたもので、日本のケアマネジャーのようなものですが、実態はずいぶん違います。
日本では認知症と診断されるとケアマネジャーがついて、介護保険を受けられるようにしてくれたり施設を紹介してくれたりします。同じようにスコットランドでは、認知症と診断されてから1年間、リンクワーカーのサポートを受けられます。そのサポートの内容がまったく違うのです。リンクワーカーがつくと、最初に「これから何がしたいですか」と聞かれます。たとえば、旅行に行きたいと言えば、それを実現するために当事者と一緒に計画を立てるそうです。
ジェームズさんは、もう運転ができないとわかったとき、サポートしてくれる仲間の助けを借りて、免許がなくても運転できるように、個人所有の飛行場を借り切って、思いっきり運転したそうです。それで納得し、自分で運転免許をあきらめたと言っていました。
日本のケアマネジャーは、何をしたいかと尋ねることはまずありません。
でも、全員がリンクワーカーを使うわけではないようで、使いたい人は使い、使いたくなければ使わなくてもいいのです。実際、リンクワーカーを使う人は5人のうち2人ぐらいだそうです。使いたくない当事者もいれば、使わせたくない家族もいるのでしょう。
使う方法も、月に1回の人もいれば半年に1回の人もいて、どういう使い方をするかは自分で決めます。当然、都会と田舎では関わり方も違いますが、基本的に「やってあげる」のではなく、「寄り添う」「一緒に考える」「一緒に行動する」のが大切だと言っていました。
余談ですが、「おれんじドア」(丹野さんが実行委員会代表を務める認知症本人のための物忘れ相談窓口)に来られた方に、美容室を閉めた認知症のおばあさんがいました。一緒に「おれんじドア」をやっている医師に頼んで、施設でお年寄りの髪をカットしてもらうことになりました。うまくできればお金をもらえばいいと励まして始めたのですが、今ではものすごく生き生きしています。髪を切ることが自信になっているのです。本人はできないと思い込んでいますから、できるんだということを提案してあげるだけで当事者の生き方が変わってくるのです。
「やってあげる」日本人
日本の場合は「やりたいことをやらせる」のではなく、どうしても「やってあげる」が強くなります。たとえば、ケアパス(サービス提供の流れを理解するための認知症ガイドブック)を作ると、地域包括支援センターの人は「手渡しして説明したい」と言います。診断直後の当事者は誰にも知られたくないので、こういうものをコソッと見たいのに、なぜ手渡しで説明しようとするのでしょうか。
日本で、「リンクワーカーは、認知症と診断された当事者に、相手の立場になって、何をしたいか、何ができるのかを尋ねるんだ」と言うと、「そんなことは当たり前でしょ」と皆さん思うでしょう。当たり前なのに、日本でそんなことを聞かれた当事者はいるでしょうか。当たり前のことが、当たり前にできていないのが日本の現状なのです。
リンクワーカーと会って、希望を持てたと言った当事者もいました。それなら日本でも、と思われるでしょうが、私は新たに制度化しなくても、地域包括センターの人やケアマネジャーがちょっと意識を変えれば、十分にリンクワーカーと同じ役割を果たせると思います。