「権利と自立と偏見」
今度、講演で認知症の人の「権利と自立と偏見」について語ろうと思っています。これもスコットランドを旅して感じたことです。
「自立」をしないと、私たちは周りから「変な人」と思われてしまいます。自立していると、自分がこれだけできるのだから、周囲から何を言われても「言われる筋合いはない」と思えるのです。自立していないと、「可哀想な人」と思われるのが怖くて外に出て行けなくなります。自立できないと、自分が過ごしたい生活ができなくなるのです。
「偏見」はみんなの心の中にあります。その根底にあるのが、認知症に対する間違った情報だと思うのです。
小学校で講演した時、「認知症になって良かったことはありますか」と聞かれたことがありました。子供は偏見がないから、そういう質問ができるんですね。
「権利」とは、当事者がこれまで過ごしてきた普通の生活を、認知症になっても続けられることではないかと思っています。
これまで、当事者は偏見があるから認知症を隠そうとしましたが、なぜ偏見が生まれるかを考えませんでした。ところが、最近になってようやく「偏見ってどうして起こるんだろう」と、みなさんが考えるようになりました。偏見を考えれば、自立につながります。自立を考えなければ、偏見はなくなりません。自立を考えれば、当事者の権利も考えるはずです。自立と偏見、自立と権利というのは、「点」ではなく、「線」でつながっているんです。
日本では、自立ではなく、守られすぎる当事者が多すぎます。認知症をオープンにしてしゃべりたい人がいるのに、奥さんや旦那さんの目を気にしてしゃべれないんです。
でも最近は、守られていない当事者がしゃべるようになってきました。やっと「権利と自立と偏見」について議論できる下地ができたのだと思います。スコットランドを旅しながら、私はそんなことを考えていました。
スコットランドの珍道中
帰国前日の3日目は観光に当て、エディンバラ城などを観光しました。
私たち3人はだれも英語がしゃべれないため、道中はほんとにドタバタ続きで、竹内(裕)さんから「ちゃんとしろよ」って怒られる始末です。今回は行き当たりばったりの旅でしたが、私たちには最高に楽しい旅だったと思います。ぜひ、他の当事者にもこんな経験をしてもらいたいですね。
私はハンバーガーが大好きです。帰国の日は、やっぱりスコットランドのハンバーガーを食べました。本当に肉厚なんです。
全員がお酒を飲むので、みんなでエディンバラのパブに行き、飲んで食べておしゃべりしました。私はいろんなビールを飲み、竹内さんはいろんなスコッチを飲む。フィッシュ&チップスをシェアしながら。最高に楽しい時間でした。
「認知症にやさしい社会」とは
観光しながら、認知症の人にも使いやすいかどうか研究してみようということで、バスや電車に乗り、美術館にも行きました。
記憶に残っているのは、電車に自転車も乗せられるようになっていて便利だと思ったこと、それに「〇〇行」という表示が車体の真ん中にあって見やすかったことです。
バスは、乗降口にパタンと倒す板があって、車椅子の人でも乗り降りしやすいように工夫されていました。スコットランドでは、障害を持っていても自由に生活する権利があるからだそうです。
ただバスは、乗り降りするときはすごく優しいのに、運転がものすごく荒かったのにびっくりしました。
全体の印象として、エディンバラなどは美しい街ですが、では認知症にやさしいかというと、ごく普通の街です。制度としても、たしかにスコットランドは、ワーキンググループなど、当事者に関するものは進んでいる印象がありますが、重度の認知症についていえば、日本の方が進んでいます。スコットランドでの診断直後からの支援、日本での進行していってからの支援、お互いに良い部分を学び合えば、それほど遠くない時期に「認知症にやさしい社会」が実現できるのではないでしょうか。今回の旅で、私が確信したのはこのことです。
〈取材・構成=奥野修司〉