メジャーリーグのキャンプを目前に控えて、「もう一つのプロ野球」が、クライマックスを迎えていた。「カリビアンシリーズ」の名を聞いたことがある人は少なくないはずだ。メキシコ以南のラテンアメリカ諸国のプロ野球、通称ウィンターリーグのチャンピオンチームが一堂に会して、「冬の王者」を決める野球の祭典が、2月1日から7日までプエルトリコのサンファンで行われた。
その昔は、バリバリのメジャーリーガーが母国に凱旋とばかりにプレーしていたウィンターリーグも、怪我のリスクを避けた彼らの姿はすっかりなくなってしまった。ラテンアメリカのプロ野球では、プレーオフ以降は補強選手が認められるため、10年ほど前までは、トレーニングがてら大物メジャーリーガーがカリビアンシリーズだけには参加することは珍しくなかったが、今ではそれすらもなくなってしまった。「カリブの祭典」も名ばかりになった感は否めないが、その出場者の大多数が春からの行き先が決まっていない「フリーエージェント(ここでは日本のようにセレブな語感は全くなく、要するに求職中ということ)」である分、ある意味本気度は増している。
そのカリビアンシリーズ決勝の8回表。6対3と突き放してもなお追いすがろうとするベネズエラ相手にドミニカのリリーフマウンドに立ったのは、ウィルフィン・オビスポだった。巨人の育成選手から這い上がり、のち日本ハムでもプレーした彼は、現在はメキシカンリーグと母国ドミニカのウィンターリーグを往復している。このピンチをしのぎ、クローザーにつないだ彼は、そのクローザーが9回を3人できっちり抑え、優勝を決めた後、フィールドになだれ込んできたファンと喜びを分かち合っていた。
彼だけではない。現在のウィンターリーグは、「アヘンテ・リブレ(フリーエージェント)」、つまりは春からの仕事にあぶれているはぐれ者たちが集まる場所である。メジャーはもはや遠い夢になりつつあり、日本に新天地を求めながらも様々な事情から数字を残せなかった「しくじり者」たちがカリブの祭典でひと時の夢を見ていた。
カリブの祭典でひと時の夢を見ていた元助っ人たち
かつてプエルトリコ、ドミニカ、ベネズエラ、メキシコの4か国によるリーグ戦として行われていたこのシリーズも近年は参加国が増え、今年はパナマとコロンビアを加えた6か国が総当たり戦のあと、上位4か国がトーナメントを競うようになった。強豪の4か国に比べまだまだ実力不足とあって、両国には多数の「助っ人」外国人が参加していたが、初参加で全敗に終わったコロンビアの4番には、DeNAに在籍していたドミニカ人のアウディ・シリアコが座っていた。
長いマイナー暮らしから抜け出すべく日本の独立リーグに活路を求めた彼は、プロ野球の半分ほどしか試合のないルートインBCリーグの石川ミリオンスターズで15本塁打を放ち、打率も3割をマークすると、DeNAと契約してアメリカでは果たせなかった「メジャー」入りを果たした。
しかし、彼が入団した2017年、DeNAは現在も中心打者として活躍しているホセ・ロペスを筆頭に打者3人、投手3人という大量の外国人選手をチームは抱えていた。結局チャンスがほとんど巡って来ないままシリアコは1シーズンで日本を去ることになったが、現在は夏はアメリカの独立リーグ、冬はコロンビアで現役を続けている。
5位に沈んだパナマにも似たような境遇の元助っ人がいた。2018年を阪神で過ごした元メジャーリーガー、ディエゴ・モレノだ。彼の母国、ベネズエラは今、政情不安からくる経済破綻のせいで治安状況が極めて悪くなっている。メジャーリーグ機構は選手の安全を憂慮し、マイナーを含め契約選手のこの国のウィンターリーグでのプレーを禁止したほどだ。そのせいもあってか、彼はこのパナマでプレーしている。
彼もまたシリアコと同じく阪神ではチームがやたら外国人選手を獲ったあおりを受け、ろくに登板機会も与えられないまま1シーズンでリリースとなったが、その数少ない一軍登板の中でも、初登板時のカープ打線は強烈に印象に残っていると言う。阪神退団後は、冬はパナマ、夏はメキシコで「助っ人」生活を続けている。