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シンプルに描くほど、リアルに近づいていく

 ごく限られた線と色によって、かくも強く五感に訴えかけてくる絵を表せるのは、なぜなのか。まずは描写の勘どころを、よほどよく押さえているということなのだろう。

 今井は、過去に衝撃を受けた絵画として、マネやベラスケスの名画を挙げたことがある。彼ら美術史に名を残す巨匠たちの絵が真に迫っているのは、だれよりも細密な描写をしたからじゃない。ほんの数本の線、いくつかの色をしかるべきところに置くのに注力することで、わずかな要素で事物を的確に捉えているのだ。

展示の様子

 おそらくは今井の作品がまとう親密な雰囲気も、マネやベラスケスの絵画と同じ原理から生じているものだ。

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 もうひとつ、今井の描き方が、私たちの日頃の視線のあり方と近しいことも、今井作品が人の感情を揺さぶる原因だと感じる。

 人が何かを見るときというのは、たいていさらりと表面をなぞるように一瞥するだけ。だいたいの印象をつかんで、おしまいだ。何かを凝視するなんてことは、意外なほど少ない。私たちのものの見方はずいぶんシンプル、というかいい加減なのである。

ホールド 2019

 そうした人の視線の注ぎ方と、今井の絵のシンプルな描き方は、よく似ている。ふだん見ているような光景がそこに描かれている、そう感じられるから今井作品は、いくらシンプルでもリアルに思えるのだ。

 温かくて親密で、世界を丸ごと肯定してくれるような今井麗の絵画に囲まれる体験、ぜひ会場で味わってみたい。