この部屋は、なんて温かそうなのだろう。食卓に置かれる食べものは、なんておいしそうなんだろう。絵を観ていて、かくも視覚以外の感覚を刺激されることって、なかなかない。
そんな展示をいまなら、東京オペラシティ アートギャラリー内で観ることができる。「project N 78 今井麗」展だ。
わずかな筆致で親密さまで表す
今井麗は1982年生まれの画家。父が画家だったこともあり、小さいころから描くことが大好きだった。美大へと進学し、卒業後に絵を描くことを生業とした。
描くものは一貫していて、静物画が中心。アボカド、ジャガイモ、タマネギ、トースト、透明な袋に入ったままの食パン、ウルトラマン怪獣のフィギュア、クマやサルのぬいぐるみ……。モチーフは、食べものがかなり多めだ。
そこらに転がっていそうな、何の変哲のないものを、今井麗は伸び伸びとした素直な筆致で、次々と絵に仕立てていく。
よく整理された画面構成を持ち、モノ一つひとつの描き出し方はあまりにもシンプルで、それはもう清々しさすら漂うほど。よくこれほどわずかな筆致で、ものの形態や質感を表すことができるものだと感心してしまう。
しかも今井の絵の場合、「温かそう」「おいしそう」といった親密な感覚まで観る側に呼び起こさせるのだから、まるで魔法みたいに思えてしまう。