『月の満ち欠け』で第157回直木賞を受賞した佐藤正午さん(61歳)は、デビュー34年にして今回が初の直木賞ノミネートだった。地元・佐世保で執筆活動を続け、選考会当日も佐世保で結果を待った。そんな佐藤さんに、単独の電話インタビューで、受賞から一夜明けた心境や、普段の執筆について伺いました。(聞き手:「オール讀物」編集部)

――昨日はどちらで結果を待っていたのですか?「待ち会」はされたのでしょうか。

 打合せでよく使う喫茶店で、『月の満ち欠け』の担当編集者と、前作『鳩の撃退法』の担当編集者と一緒に待っていました。受賞の連絡を受けたあとは、『月の満ち欠け』を担当してくれた編集者に、僕のほうから「よかったね」と言いました。

――受賞後は、最初にどなたに連絡しましたか。その後は、どのように過ごしたのでしょうか。

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 まず、次の作品で一緒に組む予定の編集者に電話しました。そしたらなんと、東京にいるはずのその人が佐世保に来てくれていたんです。これにはびっくりしました。受賞していなかったら黙って東京に帰るつもりだったらしいので、受賞できて本当によかったです。

 その後は、僕と編集者3人で、いつも行く居酒屋へ。編集者は「こういう待ち会も珍しい」と言っていましたね。東京だったら、各社の担当編集者が駆けつけたりしてもっと大人数になるのかもしれませんが、僕の場合はこぢんまりと。

――待ち会をした喫茶店のマスターは、受賞の願掛けのために、お気に入りの口髭を剃ったそうですね。

 自分から「ほら」って、剃った顔を見せてくれました。マスターは、花束も準備してくれてたんですよ。それが、今回初めて貰った花束になりました。受賞するかどうかもわからないのによくそんなもの準備してくれたなと思って、嬉しかったです。

――地元の友だちやお知り合いも、受賞を喜ばれたのではないでしょうか。

 

 僕が思っていた以上に喜んでくれました。今も、お花が届いたり、祝電が届いたりしてびっくりしているところなんですが、これからどうなるんでしょう(笑)。

 後で聞いてみると、僕の知り合いのところにまで「おめでとう」の電話がいっぱいかかってきたらしくて。電話会見の様子がテレビで流れるとも思っていなかったし、予想以上の反響で、申し訳ないんですが、直木賞をなめてましたね。

――昨日は佐世保から電話会見に応じる形でしたが、「何のために小説を書いているのか、教えていただけませんか」など、予想外の質問に困る場面もありましたね。

 会見ではつまらないことしか言えなくてすみません(笑)。思ってもみない質問だったので、どうしようもなくしどろもどろになってしまいました。

 僕としては、デビューしてもう30年以上経っているし、60歳過ぎて初めて直木賞候補になったので、真っ先にそういうことを聞かれるだろうと予想していたんです。「そこが記事のしどころだろう」と思っていたので、想定外でした。

編集部注:記者会見で、佐藤さんは「『60過ぎて初めて直木賞の候補になったっていうことは、今さらとかそういう風に思われませんか』という質問を予想してたんですね」と明かし、「今さらとは思わないけれども、『今?』っていう感じはちらっとしましたね。今まで全然出会わなかった直木賞にちょっと呼び止められて、『ちょっと寄ってかない?』みたいな。『え、今から?』みたいな、そんな答え方をしようと」と回答。会場のあたたかな笑いを誘っていました。

――会見で、贈呈式には出ますかという質問に「もちろんです」と答えられたので、驚きました。2年前に山田風太郎賞を受賞された際は、授賞式は欠席されていたので、今回もいらっしゃらないんじゃないかと思っていました。

 あんなめでたい場でミソをつけるような発言はできないなと思ったので、流れでそう言ってしまったという感じです。僕が贈呈式に出ると言っても、担当編集者はまるっきり信用してない様子でしたけど。

 今の時点ではもちろん出席するつもりです。ただ、何が起こるかわからないので……。贈呈式の日がちょうど誕生日なんです。だから、こっちで誕生日のお祝いをしてるかもしれません。

――贈呈式にいらっしゃったら、東京は何年ぶりになりますか?

 たぶん、20年以上になると思います。