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なぜ高裁は「裁判員の死刑判決」をひっくり返すのか?【“無期落とし”はついに7件】

2020/02/16

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 社会

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《熊谷ペルー人6人殺害》高裁は心神耗弱認定「被告は命を狙われると妄想」

 同様の判決は、実は昨年12月にも出されたばかりだ。埼玉県熊谷市で15年に小学生2人を含む6人が次々と殺害された事件で、東京高裁(大熊一之裁判長)は、殺人罪などに問われたペルー人、ナカダ・ルデナ・バイロン・ジョナタン被告に死刑を言い渡した1審・さいたま地裁の裁判員判決を破棄し、無期懲役とした。

 ナカダ被告は15年9月14~16日、金品を奪う目的で熊谷市内の3軒の住宅に侵入し、住人男性(当時55歳)と妻(同53歳)、住人女性(同84歳)、住人女性(同41歳)と長女(同10歳)、次女(同7歳)の6人を包丁で刺して殺害したとして起訴されていた。

 被告は公判前の精神鑑定で統合失調症と診断されたものの、1審判決は「事件当時、善悪の判断能力や行動制御能力が著しく劣った状態にはなかった」として完全責任能力を認めたが、2審判決は「事件時、被告は追跡者から命を狙われるとの妄想を抱き、被害者を追跡者とみなして殺害行為に及んだ疑いが十分に残る」などとして心神耗弱の状態にあったと認定した。

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 ともに事件による死者数は5人・6人と多く、過去の量刑相場では死刑が言い渡される可能性の高い事案だ。しかし、どちらも責任能力に関する判断で減刑されることになった。事件時の被告の判断能力を有罪・無罪に反映させる「刑事責任能力」は、専門性の高い領域だが、1審の裁判員も当然、共に審理した裁判官とともに十分な検討をした上で結論を出しているはずだ。事件の被害者遺族らが、相次ぐ高裁の減刑判断を批判するのも理解できる。

5例目まではすでに最高裁で「無期懲役」が確定

熊谷6人殺害事件で命を奪われた妻子の写真を前に、記者会見する男性(2010年2月7日、さいたま市) ©時事通信社

 1審の裁判員裁判による死刑判決が2審で無期に覆ったケースの5例目までは、既に最高裁が2審を支持する形で、いずれも無期懲役が確定している。今回の2件は、結局、検察側が上告を断念しており、最高裁で再び死刑が選択される余地はなくなった(いずれも弁護側のみが上告しており、最高裁は今後、無期懲役か無罪かを判断することになる)。