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「レクサス」はなぜ暴走したのか――元特捜検察のエースvs.トヨタ 真っ向から対立する言い分

元特捜検察のエースとトヨタの法廷闘争 #1

2020/02/18

車の暴走距離は約320メートルに及んだ

 検察や石川側の冒頭陳述などによると、事故は以下のように起きた。

 2018年2月18日、検察時代の部下だった弁護士ら4人と千葉県でゴルフをする予定だった石川は、午前7時10分すぎ、メンバーの女性を拾うため、東京都渋谷区内の道路に運転していたレクサスLS500hを停車した。鎌倉の自宅を出るときからブレーキホールド機能を作動させており、車は自動的にブレーキがかかった。

 まもなく女性が現れたため、石川は車の後部トランクへの荷物の搬入を手助けしようと、トランクを開け、シートベルトを外してドアを開けて右足から外に出ようとしたところ、車が動き出した。車はどんどん加速。最終的に100キロを超えた。石川は右足をドアに挟まれた状態で、ハンドルにしがみつき、暴走を止めるため、左手をハンドルから離し、パーキングレバーを操作しようとしたが、うまくいかず、反対車線の右側歩道を超えたところで意識がなくなったという。

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※写真はイメージです ©iStock.com

 車は、反対側の歩道にいた男性1人をはねて死亡させ、商店に突っ込んで止まった。車の暴走距離は約320メートルに及んだ。

 車は大破し、石川は右足甲を骨折し救急車で港区内の病院に搬送された。けがの形状は右足がドアに挟まれていたことを示した。警視庁が事故車を検証した結果、ブレーキコイルが焼け、部品がすり減っていた。ブレーキがかかった状態で突っ走ったことをうかがわせた。

「安全運転サポート車」による事故

 事故を起こしたレクサスLS500hは、トヨタのレクサスシリーズの最高級車。17年10月にフルモデルチェンジで発売された。ハイブリッド仕様で、アクセサリーをフル装備すると価格は1500万円を超す。石川は、別のタイプのレクサスから乗り換えたばかりだった。

「先進の予防安全技術」がこの車の「売り」だった。政府が交通事故防止対策の一環として普及啓発している「安全運転サポート車」で、自動ブレーキやペダル踏み間違い時の加速抑制装置など安全運転を支援する装置を搭載していた。

トヨタの高級車ブランド「レクサス」のハイブリッドモデルLS500h ©AFLO

 本来は、ペダルの踏み間違いをしても、障害物との距離が縮まると、自動的にブレーキがかかる仕組だが、トヨタがホームページで公開している「トヨタの安全技術」では「衝突回避支援ブレーキ機能作動中にアクセルペダルを踏んだ場合等には、作動を解除する場合があります」とされている。

 石川は事故当時78歳。事故を捜査した警視庁高輪署は、当初から、石川が、車から降りようとした際、誤ってアクセルペダルを踏み込んで自車を急発進させ、その後も、ブレーキと勘違いしてアクセルペダルを踏み続けた、と見立てた。

 事故の一報を伝える報道の多くは、事故の原因について「高輪署は運転操作を誤った可能性があるとみている」と報じた。