トヨタの最高級車レクサスの暴走による死亡事故で、過失運転致死罪などで起訴された元東京地検特捜部長の石川達紘弁護士(81)に対する第4回公判が6月30日、東京地裁で開かれた。
国土交通省所管の独立行政法人で自動車事故などの技術的検証を担当した専門家が被告側証人として出廷。ドライブレコーダーなどの詳細なデータ解析をもとに「ブレーキシステムの不具合で車が勝手に発進、暴走した可能性がある」と証言した。「車に不具合はなく石川のアクセル踏み間違いが原因」としてきた検察側の主張が揺らいだ形で、検察側は、専門家による反論の意見書を提出すると表明した。(#1、#2より続く。敬称略)
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時速100キロを超えて暴走し、男性1人が死亡
事故と裁判の争点を簡単に整理しておこう。
石川は2018年2月18日午前7時10分すぎ、東京都渋谷区内の道路にレクサスLS500hを停車。シートを後ろにずらして休憩しゴルフ仲間が来るのを待った。石川は約7分、その場で停車していたとされる。
シフトポジションはD(ドライブ)レンジだったが、レクサスLS500hは、フットブレーキを踏んで車が停止した場合、Dレンジに入れたままでフットブレーキから足を離してもフットブレーキが作動したまま停車状態を保持できる「ブレーキホールド機能」を採用しており、石川はこのブレーキホールド機能を作動させていたとしている。
ブレーキホールド機能を作動させておくと、車を停止した状態が3分続くと自動的にブレーキホールド機能が解除されて電動パーキングブレーキに移行する。いずれにしろ、ドライバーが運転席を離れても車は動かない。
まもなく仲間がゴルフバッグを持って現れたため、石川は車の後部トランクへの荷物の搬入を手助けしようと、トランクを開け、シートベルトを外してドアを開けて右足から外に出ようとしたところ、車が動き出した。
車は石川の右足をドアに挟んだままどんどん加速。最終的に100キロを超え、約320メートル走って反対側の歩道にいた男性をはねて死亡させ、商店に突っ込んで止まった。石川も重傷を負った。パーキングブレーキのブレーキシューが焼け焦げており、パーキングブレーキがかかった状態で突っ走ったことをうかがわせた。
「足が届いたか」が最大の争点
公判の最大の争点は、右足がドアに挟まれて使えなかった石川が、左足でアクセルペダルを踏んだかどうか、だった。
石川側は、左足でアクセルペダルを踏んだ事実はなく、何らかの原因でパーキングブレーキが外れ、車はクリープ現象(シフトをドライブに入れるとアクセルペダルに触れなくても車がゆっくりと動き出す現象)で動き出し、途中でまた何らかの原因でブレーキがかかったが、車はそのまま暴走したと主張。
これに対し、検察側は、「本件車両は、センサー及びコンピュータ内部の制御CPUなどに異常が出た場合、燃料や電気の供給が遮断・抑制されるよう設計されており、車両の構造上、制御CPUなどの異常によりエンジンやモーターの回転数が異常に上昇する(暴走する)ことはない」とし、警視庁交通捜査課交通鑑識係警部補の寛隆司が作成した「鑑定書」をもとに、石川が右足から降車しようとして誤って左足でアクセルペダルを踏み込んだため、車が急発進した、と主張。アクセルペダル裏にあった圧痕も、石川がアクセルペダルを全開に踏み込んだ状態で衝突したことを裏付ける、とした。