2年に一度の「世界陸上」の大舞台がやってきた。

 ロンドンで開催される今大会の主役は間違いなくウサイン・ボルトだ。昨夏のリオデジャネイロ五輪でも短距離3冠を達成するなど常勝伝説を作ってきた人類史上最速のジャマイカ人も30歳。この大会を最後に引退する意向を表明している。

 世界の陸上ファンが有終の“ライトニング・ボルト”ポーズを期待する中、もし最後の4×100mリレー(四継)で負けてしまったら? そして、土を付けるのが日本チームだとしたら――?

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ボルトと並んだケンブリッジ飛鳥。リオ五輪で世界に与えたインパクトは大きい。©JMPA

 そんな痛快な大番狂わせの可能性は決してゼロではないだろう。なぜなら、四継は個人の持ちタイムの合計だけでは測れない難しさと、面白さがあるからだ。

 日本にはトップスプリンターの証である「100m 9秒台」の選手が1人もいない。それでも四継になると、世界トップクラスの力を発揮してきた。2008年北京五輪で銅メダル。15年世界リレーでも銅。そして、昨夏のリオデジャネイロ五輪では短距離大国・米国に先着し、銀メダルに輝いた。

左から山縣亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥。©JMPA

 強さの秘密の1つはバトンパスだ。

 外国チームの多くが採用しているのは「オーバーハンドパス」。次走者が後方に腕を上げ、その手に上からバトンを乗せるように渡す。対して、日本は01年から伝統的に「アンダーハンドパス」だ。次走者が手の平を下に向け、そこに下からバトンを押し込むように渡す。「オーバー」のように腕を高く上げないため、やや距離は稼ぎにくいが、その分、走る姿勢に近く加速しやすい。

桐生選手が再現してくれたバトン受け渡し。©榎本麻美/文藝春秋

「バトンを受ける手を上げているのは3歩を目標に」など、日本人らしく細部にこだわってコンビネーションを磨き、バトン区間のスピードで他国を上回ることで勝負している。

 ちなみに、バトンを受け渡せる20mの「テークオーバーゾーン」と前後10mずつを足した計40mを、日本チームはわずか3秒7~9で駆け抜ける。これは時速40km弱と、原動機付き自転車ほどの速さ。ロンドン世界陸上ではバトンパス直後に、日本選手がぐっとポジションを押し上げる場面が見られるはずだ。

 リオ五輪メンバーでは今回、山縣亮太(セイコー)こそ故障の影響で代表落ちしたものの、飯塚翔太(ミズノ)とケンブリッジ飛鳥(ナイキ)は2人とも今季100mの自己記録を10秒08に更新して代表入り。

今季、100mで自己ベストを更新したケンブリッジ飛鳥選手。©榎本麻美/文藝春秋
飯塚翔太選手も、個人種目は200mで世界陸上に登場する。©杉山拓也/文藝春秋