「写真とは愛」と納得させられる作品群
1991年、陽子は42歳の若さで、子宮肉腫のため命を落とす。死にゆく彼女の姿を克明に写した記録が《冬の旅》と題された作品となった。このシリーズも30点以上が会場に並ぶ。近づく別れを惜しむ痛々しい写真、撮影者の意気消沈した気持ちがたっぷり投影されたカットを連続して見ていくのはつらい。どの写真からも、ともに過ごす残りわずかな時間を慈しむ気持ちが、ひしと感じ取れる。
「写真とは愛である」
そんなベタな言葉を、荒木はことあるごとに発するけれど、それは口先だけではないことが、《冬の旅》の前に佇んでいるとよく理解できる。身近で愛する存在を撮る、そうすればおのずといい写真になる。こんなわかりやすくて単純な原理で、荒木の写真はできているのだと気づかされるのだ。
会場内を進むと、陽子の死後に撮られた作品にもたくさん出合う。陽子のいない喪失感を表したかのようにも見える、空やモノを撮った《空景/近景》。やるせない気持ちを叩きつけるように、空の写真にペイントを施した《遺作 空2》。陽子がもらってきてともに飼ってきた愛猫を撮った《愛しのチロ》。
どのシリーズにも撮り手の渦巻く感情がたっぷり含まれているから、観る側の気持ちも大いに揺さぶられる。ああ、ここに半世紀のあいだ一人の女性を愛し、枯れることなく命を燃やし続けている人がいる。こんな生き方もあるのか、そう思い知らされて、老写真家から元気をお裾分けしてもらった気分になる。
老いてますます盛んなアラーキー、今展のほかにも、東京オペラシティアートギャラリーでは「写狂老人A」と題した大規模展覧会も開催中(9月3日まで)。じつは今年は、月に1本以上のペースで国内外の美術館、ギャラリーで個展を開くスケジュールになっている。
「写真がアタシの人生だし生活」
と言い切る彼のことである。今、この瞬間だって写真を撮り、新作を生み続けているにちがいない。