東南アジアの現代アート。そう聞いて何らかのイメージを持てる向きがどれほどいるか。ならば、まとめて知れる機会を大いに利用しよう。ともに東京六本木に位置する森美術館と国立新美術館が合同で、「サンシャワー 東南アジアの現代美術展 1980年代から現在まで」を開催中だ。
あまりにも多様すぎる作品群
都内有数の広大な展示スペースを誇る両館で同時に繰り広げられているのは、ASEAN加盟10カ国から集められた80組以上のアーティストによる作品展示。あまりに膨大で、これはもう展覧会というより、ちょっとした芸術祭といった趣が漂う。
現代アートの始まりは20世紀前半といわれ、当時も今も発祥地たる欧米を中心に回っているのは厳然たる事実。では、後発にして周縁という位置付けにならざるを得ない東南アジアのアートは、どんな展開を見せてきたか。これほどの規模の今展なら、全体像を窺い知ることができる。
会場を巡って真っ先に思うのは、当然ながらその多様性だ。現代アートには常にトレンドがあって、グループ展になるとその流れに沿った作品ばかり集まりがちだけど、今展には何らかの傾向が読み取れない。
シンガポールのリー・ウェンは、全身を黄色に塗って赤いバルーンを身にまといパフォーマンスする様子を写真作品にしてまとめている。黄色人種としてのアイデンティティを問い直しているのか。
ブルネイのヤスミン・ジャイディンは、自分の宝物を象って、その形態を砂糖でできたオブジェにしている。もとになった宝物とはいったい何だったのか、こちらは想像をたくましくするしかない。ブルネイに暮らす人の気持ちについて、知らずあれこれ考えを巡らすこととなるのだ。
インドネシアのムラティ・スルヨダルモは、延々と「アイム・ソーリー」とつぶやきながら、口にした回数だけ壁面にチェックを入れるというパフォーマンスを披露。住んでいる国・地域も生い立ちもバラバラだから当然なのだけど、彼ら彼女たちが繰り出すアートはテーマも制作手法も見せ方も本当にさまざま。人はいろんな環境で生きているものだ、とりわけアジアはとことん多様だなと、改めて思い知らされる。