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血行を良くしようとしてブラシで叩いて頭皮がゴリゴリに

──ふつうのシャンプーやリンスでいいんですね。ドラッグストアに行くと、育毛剤なんかもたくさん売られています。

佐藤 ミノキシジルの入った育毛剤は多少効果が期待できるかもしれませんが、育毛剤も使い過ぎはいけません。一卵性双生児を比べた研究があって、30歳ぐらいまでは髪の毛の状態は変わらないのですが、60歳ぐらいで大きく差がついた人がいました。なぜそうなったのか、いろいろ聞いてみたら、育毛剤などをたくさん使った人のほうが、かえってハゲてたんだそうです。だから僕は、「不適切な育毛行為は、逆に薄毛を進行させる」って、患者さんみんなに伝えているんです。がんの治療もそうですが、民間療法にお金を使っても、逆に命を縮めてしまうことになりかねない。それと同じなんです。

──なるほど、育毛のやり過ぎも、かえってよくないと。血行をよくしようと、頭皮をブラシで叩く人もいますね。

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佐藤 あれも、やり過ぎると大変なことになります。むかし来た患者さんで、イノシシの毛でつくったブラシで、血だらけになるまで頭を叩いてた人がいて、頭皮がゴリゴリになっていました。傷跡だらけで。

──夜中に血だらけになりながら、頭を叩いてるなんて……。

もともと何もしなくても頭皮は血行がよいもの

佐藤 そもそも、頭には5本も大きな動脈が通っているので、頭皮の血行は何もしなくてもいいんです。何十年も前、頭皮に行く血管を縛って血行を悪くする治療を試した医師が英国にいて、その論文を読んだのですが、血行が悪くなると男性ホルモンが頭皮に行かなくなるので、逆に薄毛が治ったのだそうです。ですから、血行をよくすると、かえって薄毛が進行する可能性もあるんです。だからといって血管を縛っても、血流を回復させる新しい血管が生まれるので、半年もすると薄毛に戻るんですが。

「不適切な育毛行為は、逆に薄毛を進行させる」と佐藤医師はいつも患者さんに言っているという ©佐藤亘/文藝春秋

──佐藤先生のところでは植毛もされているそうですが、さらに毛髪の幹細胞を使った再生医療の研究もされているとか。

佐藤 はい、私たち北里大学のメンバーと、理化学研究所、東北大学、組織培養会社の共同研究で、毛髪再生医療の開発に取り組んでいます。患者さんの髪の毛の多い部分から毛根の幹細胞を採取して培養し、髪の毛の薄いところに移植する方法です。つまり、ハゲてないところから健康な髪の毛を取ってきて、それを何十倍かにするということですね。たとえば、50本取ってきて50倍すれば、2500本になるわけじゃないですか。それをレーザーで移植するんです。

──つまり、髪の毛の種を採ってきて増やし、それを移植するということですね。

佐藤 そうです。マウスでは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った実験にも成功していて、これは幹細胞を移植した毛のないヌードマウスなんですけど、毛が生えてきているのがわかりますよね。ただ、人間では、iPS細胞ではがん化のリスクがあるかもしれないので、実用化にはまだ何年もかかりそうです。これから実際の人を対象に、臨床研究に入っていくと思います。

iPS細胞を移植したヌードマウスに毛が生えてきた! 

──今は、フィナステリドという薬がありますが、髪がフサフサに生えてくる人は2、3割とおっしゃっていました。この毛髪再生医療がうまくいけば、薬は要らなくなるんでしょうか。

佐藤 いや、順番があるわけですよね、どんな方法でも。たとえば肝臓が悪くなったら、まず、肝臓の薬を飲むことから始まります。でも、肝不全が進んだら、移植も考えましょうとなりますよね。心臓病の場合も、最初は薬や手術で治そうとするわけですが、それが無理なら心臓移植や人工心臓を考える。その後にくるのが、再生医療なんです。なぜかというと、やっぱりリスクも高いし、価格も高いので。

──つまり、薬でうまくいかなかった患者さんに、薬や植毛の次に提供できる手段として、再生医療を研究しているということですね。

佐藤 もうひとつの目的は、髪の毛に限らず、今のところ再生医療って三次元臓器では、表皮と軟骨しか実用化できてないんです。ですから毛髪再生医療は、三次元臓器が技術的に可能かという挑戦でもあるんです。安倍首相がお金出して頑張ろうと言っているのに、日本の再生医療はまだ十分な成果を出していません。先細りになりそうなところを、「じゃあ僕らも頑張ってやってみよう」ということで挑戦してるんです。