薄毛の進行を食い止められる治療薬の登場は、男性型脱毛症(AGA)に悩む人にとって大きな福音となりました。しかし、気になるのは、その治療費です。少しでも安い方がいいかもしれませんが、インターネット通販で販売されている薬には偽物も流通しているとか。また、クリニック選びも注意をしないと、科学的根拠のない治療やセット販売などで、多額のお金を支払うことにもなりかねません。どんな薬やクリニックを選べば安心できるのか?  日本における薄毛治療の第一人者、東京メモリアルクリニック・平山の佐藤明男院長にジャーナリストの鳥集徹さんが迫る第2回です。

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──前回、AGAの治療薬フィナステリドを飲めば、99.7%の確率で薄毛の進行を食い止められ、患者さんの満足度も高いというお話をうかがいました。ただし、20歳ぐらいで薄毛になって治療を始めたら、薬を飲む期間が相当長くなりますよね。AGAは病気ではないので、健康保険が利きません。つまり、保険の利かない自由診療ですから、経済的にも負担になりませんか? ネットで調べると1ヵ月1~2万円とありました。

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佐藤 そんなにかかりませんよ。先発品の「プロペシア(フィナステリドの商品名)」だと月に7500円ぐらい、ジェネリック(後発品)にすれば4500円ぐらいです。経済的に少しでも安いほうがいいという方もいますので、患者さんが希望されたら私もジェネリックを処方しています。

「ジェネリックには差があると感じています」©佐藤亘/文藝春秋

──すでにジェネリックも出てるんですね。効果の差は、あまり気にしなくていいでしょうか。

佐藤 いや、差はあると感じます。フィナステリドの原薬(主成分)は、日本1社、インド2社で作っているのですが、製剤化(添加物などを加えて薬の形にすること)するときに、どうも技術差があるようです。ジェネリックを希望されて、処方した患者さんの中には、「効かないから先発薬に変えてください」という人や、喘息が悪化したという人もいました。添加物に問題があるのかもしれませんが、ある1社の薬にはそのようなクレームが集中するようです。

──ジェネリックでも問題なく効果が出る人もいるんですよね。

佐藤 もちろんです。ただ、ジェネリックは出始めてまだ1年ほどしか経っていません。そのため、製品が安定化しておらず、そうしたトラブルが出やすいのかもしれません。一方、先発薬は市場に出て20年近くになります。私も先発薬でデータをとってきましたから、「この薬は、これくらい効きますよ」と胸を張って言うことができます。そもそも、それくらいの実績がないと、本当にいい薬なのかどうかは言えません。ジェネリックはデータがないので、いい薬だと確信をもって言えない状況です。ジェネリックもデータを集めて、実績を作っていく必要があるでしょう。

ネット通販で買った偽物の薬を飲み続けていた患者さん

──クリニックで処方してもらうとお金がかかるから、ネット通販で買うという人もいるのではないでしょうか。

佐藤 薄毛でクリニックに行って、「薬ください」と言うのは恥ずかしいので、ネットに頼るという人もいます。でも、調査によるとネットで売られている勃起不全治療薬「バイアグラ」の半分ぐらいは偽物らしいですよ。フィナステリドにも偽物が混じっているかもしれません。私のクリニックを受診した人にも、「ネットで買った薬を1年半飲んだのですけど、効きません」という方がおられました。その薬を見せてもらったら、やっぱり偽物でしたね。

──ネット通販などで売られている海外製の「やせ薬」などでは、危険な成分が入っていて、死亡事例を含む健康被害が起こったケースもありました。ですから、恥ずかしがらずに医療機関を受診して、正規の薬を処方してもらったほうがいいですよね。ただ、巷にはAGAの治療を売りにしているクリニックがたくさんあります。製薬会社も「お医者さんに相談だ」って、盛んにテレビCMを流していました。ただ薬を処方するだけなので、どの医療機関に行っても同じような気もしますが、実際にはどうでしょうか。

佐藤 いや、ただ薬を処方するだけといっても、薄毛の診療をする医師にも能力の差があります。

経験の少ない医師に注射を打たれて頭皮が膿んでしまうケースも

──意外ですね。どんなところに能力の差が出ますか?

佐藤 やっぱり、経験数に差がありますよね。私のように数多くの症例を診ている医師は、日本で何人もいないはずです。いつの間にか開設されて、AGAの治療を始めるクリニックというのは、だいたいアルバイトの医師が診察してるんです。医師以外に資金を出す経営者がいて、薬の仕入れから広告媒体の使い方、利益の出し方まで、セット販売されているパッケージを買うんですよ。で、美容外科医になったもののやめて、ブラブラしているような、若手の医師を雇うんです。実際、医師向けのサイトなんかには、「AGAの診療は楽で儲かる」みたいな求人が出ることがあります。皮膚科医でも形成外科医でもない医師を集めて、「大丈夫ですよ、ちゃんとお教えしますから」ってやってるんです。

──なるほど。でも、そういう医師でも薬を出せば、一応の効果は出るわけですよね。

佐藤 しかし、そういうクリニックは儲けるのが目的ですから、コストを下げるためにどこから薬を仕入れているのかわかりません。それに、宣伝には安く治療が受けられると書いてあったのに、実際に行ってみたら薬だけでなく、頭髪にいいとされるハーブを売りつけられたり、育毛するという注射を頭皮に打たれたりして、月に何十万も取られた患者さんもいました。経験の少ない医師に何十ヵ所も注射を打たれて頭皮が膿んでしまい、大変なことになった患者さんもいましたよ。しかも、その注射薬は他人の細胞を培養したものとされているので、どんな病原体に感染するかわからない。

──えーっ、それは怖いですね。