明治21年、女性教員を輩出するための学校である高等師範学校女子部(=女高師、後のお茶の水女子大学)の生徒が、欧化主義への批判から暴徒に標的にされた鹿鳴館への襲撃を食い止める――。

 史実とイマジネーションを見事に融合させた『明治乙女物語』(小社刊)で著者の滝沢さんは松本清張賞を受賞し、小説家デビューを果たした。

「鹿鳴館での夜会で、授業で舞踏を習っている女高師の生徒を踊り手として借りたことがあるという事実を文献で見つけたのが着想のきっかけです。また、この時代の女子教育を描くならば初代文部大臣である森有礼の存在を書かない訳にはいかない。リベラルでありながら国家主義者という、一見相反する思想が彼の中でいかに同居していたのかという謎もストーリー作りに大きな影響を与えました」

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 襲撃への不安から夜会への参加希望者が少なく、森有礼の要望で招待された野原咲ら女高師の生徒たち。警察顔負けの洞察力を誇る、咲の推理やいかに。“女に学問はいらぬ”という当時の世相にどう立ち向かうかも読みどころのひとつだ。

 一見、なじみの薄い時代を扱っているようだが、著者は「娯楽小説として女生徒たちが元気に活躍する姿を楽しんでもらえれば」と語る。

「主人公に限らず、登場人物をいかに魅力的なキャラクターにできるか、セリフや心情描写に注意して書きました。その上で、この時代だからこそ浮かび上がるテーマにも興味を持っていただけたら嬉しいですね」

明治乙女物語

滝沢 志郎(著)

文藝春秋
2017年7月7日 発売

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