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戦争画には「夢の視点」があるような気がします

――ところで今日さんは東京藝大出身ですよね。戦争画について学ぶ講義などはあったんですか?

今日 私は先端芸術表現科というところで現代美術を学んでいたんです。なので、専攻は絵画じゃないんですけど、当時は会田誠さんが目立ち始めていたと思います。『ミュータント花子』とか「戦争画RETURNS」シリーズとか。「ああ、もうこうやっちゃっていいんだ」とみんなが思い始めた時期なんじゃないかな。

――印象に残っている「戦争画」はありますか?

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今日 仕事で『画家たちの「戦争」』という本を参考にしたことがあるんですが、その中にあった鶴田吾郎の「神兵パレンバンに降下す」という作品が印象的でした。戦争画の視点って「夢の視点」という気がしているんです。夢の世界って自分は死なないじゃないですか、必ず自分の視点が残ったままで。それと似ていて、戦争画の世界もたくさんの人が死んでいるけど、画家の視点だけは生き残っている感じがするんです。藤田嗣治の『アッツ島玉砕』にしても、そういうフワッとした不思議な感じがある。それは漫画表現にも通じるところがある気がするんです。

鶴田吾郎『神兵パレンバンに降下す』(『画家たちの「戦争」』の裏表紙より)

――ご自身の作品で、思い入れのある一コマを挙げるとすればどれになりますか?

今日 うーん、難しいですね……。一つ挙げるとすればこれかな。

『cocoon』©今日マチ子(秋田書店)2010
『cocoon』©今日マチ子(秋田書店)2010

 この場面とこの場面が対比になっているんですけど、これは絶対に描きたいと思った場面なんです。さっき「ちぎれる」という暴力表現についてお話ししましたが、これくらいの中高生の女の子にありふれた風景が一瞬でこうなっちゃうという残酷さ。雑誌連載だったからできた表現でもあるんですけどね。

 

――どういうことですか?

今日 最近はデジタルメディアでの漫画も増えて、見開き2ページで表現する機会が少なくなってきたんですよ。スマホで読む漫画だと、縦スクロールに対応しなきゃならないから、コマを見開きで横につなげて描くってやり方がしにくいんです。

――なるほど、たしかに……。

今日 あと、背景を描き込むこともあんまり歓迎されないんですよね。描いても別にいいんですけど、簡単に読み飛ばされやすいんですよ、スマホだと(笑)。

――また戦争を背景にした作品に取り組む予定はあるんですか?

今日 今、少しずつ「愛国婦人会」の資料を集めています。朝ドラとかで、たすきをかけて「お国のために」って出てくる割烹着のおばちゃんたちです。いわゆる奥様サークルにも近いものがあるように思えるんですけど、会ができるまでには今で言うセレブ奥様の集まりと、しまむら系の奥さんたちが集まる二系統があったらしいとか、調べていると結構楽しい。で、奥様たちが集まって、一緒に手作りガスマスクとか、手を動かしていろんなものを作っていたようなんです。そういう、母親たち、女性たちが手作りした「おかん的なもの」って、なかなか表立って語られることがないと思うんですけど、物語として描けたらいいなって思っています。だからこそ、そういう細部が読まれる漫画メディアがもっと増えたらいいなあと思っているんですけどね。

 

きょう・まちこ/東京都出身。東京藝術大学美術学部卒。セツ・モードセミナー卒。2004年よりブログに「センネン画報」を発表。05年「ほぼ日マンガ大賞」、14年に手塚治虫文化賞新生賞、15年『いちご戦争』で日本漫画家協会賞・カーツーン部門大賞。他の作品に『みかこさん』『みつあみの神様』『5つ数えれば君の夢』など多数。

写真=平松市聖/文藝春秋 

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