戦後72年。かの戦争体験の声が次第に聞けなくなっている今、証言者たちの“孫世代”の中に、声を拾い、研究を深め、表現をする人たちがいる。
戦争から遠く離れて、今なぜ戦争を書くのか――。
インタビューシリーズ第3回は漫画家の今日マチ子さん。2004年から始めたブログ「センネン画報」で注目されて活躍する中で、沖縄ひめゆり学徒隊から想を得て描き、「マームとジプシー」によって舞台化もされた『cocoon』や、『いちご戦争』『アノネ、』『ぱらいそ』と、少女たちの戦争を描き続けている。繊細なタッチそのままに、なぜ戦争を描くのか、理由を伺った。
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――デビュー作の『センネン画報』をはじめ、今日さんの作品は淡く儚げな少女たちの日常をテーマにしているものも多いと思います。一方で、それとは全く違う「戦争」という非日常を描きはじめたのはどうしてなんですか?
今日 私が初めて戦争をテーマにしたのは、ひめゆりの女の子たちから想を得て描いた『cocoon』(2010年)ですが、これは担当編集者あっての作品なんです。彼女は沖縄出身で、少女目線のひめゆりの物語を描いてほしいと私を訪ねてくれたのですが、ほぼ同世代なのに沖縄戦の話を熱心に詳しく語ってくれたんです。その時に「どうしてこの人はこんなに戦争を語るのだろう」って結構ショックを受けたんですよ。私はどちらかというと、戦争を語ったり向き合うことが怖くて、避けていたので。
――怖かった?
今日 戦争は怖い、とにかく怖いというイメージだけが子どもの頃からあったんです。小学生のときに何度も接した戦争の話とか映像とかが生々しくて、強烈に残っていたんですね。それで、もういい、もうたくさん、という思いが正直あって……。
――では、戦争をテーマに漫画を描くことは相当な決断だったのではないですか?
今日 そうですね。まず私なんかには描けないという思いが強かったですし、こういう題材で漫画を描いたり、物語を作ることは何かとリスキーだということもわかっていましたから。ただ、『cocoon』の担当さんがこだわっていた、女の子を描き続けている私に戦争を描いてほしい、という熱意には何とかして応えたかったし、描くことで私なりの意味が見つかるはずだと決意したんです。
――作品に取り組む前には、欠かさず取材をするそうですね。
今日 ライターをしていた時期がありまして、ものを書くには必ず現地を取材するという鉄則が、なんとなくあるんです。『cocoon』は沖縄、『アノネ、』はアウシュビッツ、『ぱらいそ』は長崎を取材しました。
――怖い、描けないと思っていた戦争を、その後もテーマにし続けているのは、『cocoon』を描き終えて何か覚悟ができたからですか?
今日 というか、描ききれない部分が常に出てくるんですよね。『cocoon』は女の子しか出てこなかったから、今度は少年も入れようとか、敵を描こうとか。『アノネ、』は被害者と加害者の両方の視点から描いたものですが、毎回描けなかったことを追いかけている感じです。