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野球用品界で強烈なブームを巻き起こした“カチカチバット”こと「カウンタースイング」は何がすごいのか

文春野球コラム ウィンターリーグ2019-2020

2020/02/26

 たまごっち、ルーズソックス、(色々とすっ飛ばして)昨年のタピオカミルクティー……。

 それぞれの時代の流行、“ブーム”の移り変わりは、どの業界においても激しい。それは「野球用品」の世界においても例外ではなく、在庫僅少の状況が続いていた大ヒット商品も、いつの間にか見かけなくなることもしばしばだ。

 では、近年の野球用品界で、強烈なブームを巻き起こしたものは何かと考えてみると、真っ先に「カチカチバット」が思い浮かぶ。

本塁打新記録の「秘密兵器」

 カチカチバットの正式名称は「カウンタースイング」。ヘッドから根本にかけて、可動式のコマが2つ搭載されているトレーニングバットで、正しい軌道で振れたときは、この2つのコマが分離することなく、ヘッドでコマを叩くことができ、「カチッ」と音が1回鳴る仕組みだ。反面、必要以上に力んだり、ボールに向かって上から振り下ろすようなスイングをしてしまうと、バットに遠心力がかかり、コマがヘッド側に分離しながらスライドすることで、「カチカチッ」と2回鳴ってしまう。「音1回」を目指すことで、スイングを強化できるトレーニングバットだ。

スイングを強化できるトレーニングバット「カウンタースイング」 ©井上幸太

 カウンタースイングを開発したのは、京都在住の野田竜也氏。元々は、大学まで野球を続けた野田の長男用の練習道具として開発をスタートさせた。建設関連の仕事をしていたこともあり、手に入りやすかった木材の切れ端など、廃材を原材料に試作を重ね、完成にこぎつけたものだった。

 実際に触れた知人からの賞賛の声、野田自身も感じていた「いいものだと必ずわかってもらえるはず」という手応えから、2013年に一般向けの販売を開始。しかし、思うように売れない時期が長く続いた。

「家族にも申し訳なかったし、『カウンタースイングはダメだ』と否定もされ悔しい思いがあった」と野田も苦しんだが、発売から4年の月日が経った2017年に野田の人生は一変する。

開発者の野田竜也氏 ©井上幸太

 この年の夏の甲子園で、広陵高の中村奨成(現・広島)が、一大会6本塁打の新記録を樹立。1985年夏に、PL学園の主砲だった清原和博(元西武ほか)が記録して以来、誰も破れなかった5本塁打の大会記録を塗り替え、観衆は大いに沸き立った。

 中村は日頃の練習でカウンタースイングを愛用しており、新記録達成の前後には、複数のメディアが「打棒を支える秘密兵器“カチカチバット”」として取り上げた。そこから、一気に注文が増加したのだ。野田が当時を振り返る。

「日に日に公式サイトへのアクセスが増えていって、今まで経験のない量の注文をいただきました。特に新記録達成直後はあまりにも問い合わせが多くなってしまって、私自身がパンクしそうになりました。どうにもならなくて1日だけサイトを閉じましたが(翌日には復旧)、その後もたくさん注文をいただいて。初戦(中京大中京戦)の逆方向への一発を見たときに、『えらいことになるんちゃうか』とは思いましたけど、これほどのことになるとは思ってなかったです」

 そこからはメディア対応を適宜こなしつつ、カウンタースイングの製作に終始。木材の加工から組み上げまで、全ての工程を野田が担当するため、一時たりとも休めない状態が続いた。多忙を極めたものの、夏の甲子園終了から約半年後の2018年2月には、一番注文が集中した夏の受注分を全て完成させた。