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野球用品界で強烈なブームを巻き起こした“カチカチバット”こと「カウンタースイング」は何がすごいのか

文春野球コラム ウィンターリーグ2019-2020

2020/02/26
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「ユーチューバー舐めてました」

 ホッとしたのもつかの間、直後の3月にまたも大きな波が押し寄せる。某人気野球ユーチューバーが、自身のユーチューブチャンネルでカウンタースイングを紹介する動画を投稿したのだ。野田が回想する。

「カウンタースイングは、決して扱い方が簡単な道具ではないんです。使っていただいている方々の動画を見ても、誤解したまま振り続けている人が少なくない。2018年3月に公開された動画は、カウンタースイングの注意点、練習でのポイントなどを上手く説明してくれているものでした」

 ユーチューブ上に公開された動画には、スイングの成功例、NG例をそれぞれ実演したり、開発者である野田本人の解説も組み込むなど、視聴者に伝わりやすく、そして「使ってみたい」と思わせる内容だった。

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 動画が公開された3月1日の夜は数件の注文のみだったが、翌日以降から加速度的に注文数が増加。トータルでは甲子園期間付近の注文数も上回ったという。

「失礼な言い方なんですが、正直ユーチューバーを舐めてました。いくつかのメディアに取り上げてもらった甲子園の時期を含めても、この時期が一番エグかったです」

 2017年の夏に火が付き、2018年春に絶頂を迎えた“カウンタースイングブーム”。現在は注文数も落ち着き、「売れなかった昔よりは安定して注文は入るけど、爆発的ではない」(野田)状況。入金確認から5営業日以内に商品を発送できる体制が整っているそうだ。

 大ブームを振り返って、野田にはいくつかの後悔があるという。

「ユーチューブ動画のときなんですが、『数本でも注文がきたらうれしいな』ぐらいの意識で構えていました。十分な準備ができていなかったから、すぐに在庫が底を突いた。せっかく注文してくれたお客さんを待たせてしまいましたし、プレーできる期間が限られている学生野球の選手には『引退までに間に合わないんですね……』と悲しい思いもさせてしまった。カウンタースイングに触れてもらう機会を自ら手放したようなものだと思います」

 またカウンタースイングに対する“誤解”を解き切れなかったことも悔いのひとつだ。

「一部の方の意見を見ると、カウンタースイングが“必殺技”や、スイングの種類のひとつのように思われている気がします。ダウンスイング、レベルスイング、カウンタースイング……、みたいな。でも、それは違うんです。カウンタースイングは、あくまで“バット”、練習道具の名前で、新種のスイングでも何でもないんです。一番重要なのは、このバットで練習して試合でホームランを打つこと。『1回鳴った! はい終わり』と言って手放す方もいますが、それはあくまでスタート地点。『まだ何も始まってないで』と反論したいんですが、自分が発信を怠っていたことが原因だとも痛感しています」

現状を打破するため“新作”の開発

 カウンタースイングの誤解が残り続けている現状を打破するため、野田は“新作”の開発を進めている。

 新作でもカウンタースイングの肝である2つのコマは健在だが、従来品よりもシャフト部分を長くするなど、形状に大きな変化を加えた。以前からカウンタースイングを愛用する指導者の一人は、試作品を振り、「きちんと理解して使えば、従来品を10スイングするのと同じ効果が1スイングで得られる」と上々の反応を示したという。また、グリップ部分には野球用のグリップテープではなく、“ゴルフ用”のグリップテープを搭載する予定だ。

現在開発の新作カウンタースイング。ゴルフ用のグリップを搭載しているのが特徴 ©野田竜也

「私も趣味でゴルフをやるんですが、ゴルフと野球は通ずる部分が多いと常々感じます。私自身が優れたコーチング能力を持っているとは決して思いませんが、ゴルフ界は『現役時代の実績、肩書に関係なく、コーチングの能力が高い人から学ぶ』風土ができていると感じます。そういう流れを少しでも野球界に送り込められたら……という思いもあります」

 一度切りのブームで終わらせず、“本物”として末永く使われるように。野田と「カチカチバット」の新たな挑戦が始まっている。

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