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異色すぎる肩書き「ミュージカル俳優兼独立リーガー」の誕生から引退まで

文春野球コラム ウィンターリーグ2019-2020

2020/02/29
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悩んでの引退決断……今後の活動は?

 シーズン終了後、当時チームを率いていた石井貴監督から「来年が勝負だな」と声を掛けられた。和田自身も「1年目よりはやれる」手応えを感じつつあったが、無給で過ごすこととなる練習生として1年の大半を過ごした懐事情もあり、挑戦継続を即決できなかった。

 熟考の末、現役引退を決意。NPB行きの夢は叶わなかったが、「悔いはない」と断言する。

「中学時代に不完全燃焼で終わった野球に再び向き合って、そこへのわだかまりはなくなりました。シーズンの途中でチームを離れる仲間を見て、自分自身の気持ちが揺らいだことも正直ありました。それでも、踏ん張って、食いしばって野球に向き合い続けられた。苦しいことの方が多い、正直苦しいことだらけの1年間でしたけど、今までできていなかった『野球を100%愛する』ことができるようになりました」

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 2018年11月1日。徳島インディゴソックスの公式サイトで、和田を含む9名の選手の退団が発表された。

 情報がリリースされた当日の夕方、和田からTwitterのダイレクトメッセージが届いた。たった一度取材しただけの筆者にまで連絡をくれる律儀さに恐縮しながらメッセージを開くと、今季で現役を退く旨、「選手を退いた後もミュージカルと野球をつなげる活動をしていきたい」という今後の抱負が綴られていた。

 出身は愛知、独立リーグ挑戦前は首都圏を中心に活動をしていた。当然、引退後はそちらに戻り、ミュージカル俳優のキャリアを再開するものだと、連絡を受け取った直後は思い込んでいた。しかし、和田の選択は違った。現役を終えた後も四国に残る道を選んだのだ。

 現在は愛媛県東温市にある「坊っちゃん劇場」と舞台出演の契約を結んでいる。2019年度は、同県の新居浜市にかつて存在した別子銅山に関わる人々の人間模様を描いた舞台『瀬戸内工進曲』に出演している。和田がそのいきさつを振り返る。

「坊っちゃん劇場が、2018年に徳島を題材とした『よろこびのうた』を公演していました。当時から劇場の存在は知っていて、『徳島の球団であるインディゴソックスと何かコラボできないか』と思ったんです。球団に提案させてもらって、僕が間に入って劇場と話を進めていきました。そこが繋がりのスタートですね」

 和田の提案は形となり、実際に徳島インディゴソックス主催の公式戦に舞台俳優たちが来場。試合会場でのPRイベントの開催に成功した。

 現役引退後、和田自ら劇場の支配人に連絡を取り、2019年度から劇場に所属することが決定。そこには首都圏で活動を重ねるなかで感じていた、ある思いもあった。

「『ミュージカル一本で食べている人』は、僕の体感では9割以上が首都圏で活動しています。劇場や、俳優を目指すスクールも東京に集中している現状もあって、地方在住の人々はミュージカルに触れる機会が圧倒的に少ない。自分が四国で活動して、ミュージカルの裾野を広げていけないかと思うようになったんです」

 愛媛での舞台出演に並行して、徳島では子ども向けにレッスンを開講している。「想像以上に素質のある子がたくさんいる」と、見出されないままだったかもしれない“原石”の存在に顔をほころばせる。

 その他にも、野球、ソフトボールの入門競技の側面を持つ「ティーボール」の認定指導員の資格を取得。来年度は学生野球の指導者資格回復研修も受講する予定で、競技人口減が叫ばれる野球界にも働きかけていくつもりだ。和田は言う。

「自分がインディゴソックスにいた縁から、高校球児たちがチームで舞台を見に来てくれたこともありました。野球で磨いた個性を持った彼らが、ミュージカルの世界に飛び込んできたら絶対面白いと思うんです。僕のスクールに来てくれている子が、ミュージカルと合わせて野球に興味を持ってくれたら、それも嬉しい。野球もミュージカルも体験してもらえば、必ず面白さがわかってもらえると実感しています。そのきっかけ作りを僕がしていきたいです」

 和田は1年在籍したアイランドリーグを「夢を追い、叶える場所であると同時に、夢を諦める場所でもある。でも、こんなに夢が溢れた場所はないと思います」と称した。敗れた夢の先にあった新たな目標を、これからも四国で追い続ける。

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