今回、進歩派が「『新天地』は保守派と関係があった」と主張するのには、前提として、そんな背景があるのです。あくまで「外国の宗教」としてキリスト教を受容している日本に比べ、韓国のキリスト教は政治や社会と広く関わり合って土着化しています。
「道徳的にかわいそうな日本人を救う使命がある」
――韓国の新興宗教は韓国国内に留まらず、日本を始め世界に進出しています。「新天地」も日本に支部を持っています。
基本的に、布教には「よい教えを知っている我々が、まだ知らないかわいそうな人たちに教えてあげないといけない」という意識があり、それが世界各地の宗教がよその土地へ進出する際の原動力になっています。
ただ、「統一教会」や「摂理」などの韓国の新興宗教の場合は、現実の政治的な日韓関係が影響している感は否めません。「日本から虐げられたぶん、道徳的に韓国は有利だ。キリスト教が弱く、道徳的にかわいそうな日本人を救う使命がある」という意識が、進出の原動力に加わっている側面はあると思います。
――日本の新興宗教とはどこが違うのでしょうか?
日本に比べて、自分たちの考えを政治的に実現することを重視する傾向はあるでしょう。たとえば、いま韓国では憲法改正が議論される中で、同性婚を認めるかが争点の1つになっています。すると、反対する保守的なプロテスタントが、ソウル駅前で憲法改正に反対するビラを配ったり、LGBTのレインボーパレードにも突撃したり……。時には、道に寝っ転がって、「悔い改めよ! 同性愛は罪!」というプラカードを掲げてまでパレードを妨害しています。昨年10月の大規模な「反・文在寅デモ」の中心にも、保守系のプロテスタント団体の牧師が関わっていました。
政府は20万人超の信者に全数調査を宣言
――政治と宗教が密接なだけに、今回「新天地」が起こしたような社会問題は扱いが難しそうです。韓国の一部では、新型コロナウイルスをめぐって文在寅政権が行っている「新天地」への対応が批判されています。
政権の対応自体に大きな問題があったとは思えません。「新天地」の秘密主義によって実態が隠されていたために、結果的に事態の把握が遅れてしまった。むしろ、政府が20万人を超える「新天地」信者に対する新型コロナウイルス感染者の全数調査を宣言し、現場で業務に当たって残業が続いていた43歳の男性公務員が亡くなったと報じられているように、過剰すぎる部分もある。ここまで極端な事態が起こる要因には、大統領の権限が大きいことに加え、毎週教会に出席するような韓国人の信仰熱心さがあるのです。