文在寅大統領は「進歩派・カトリック」
――韓国では、神秘主義的な信仰が多い印象があります。
韓国の場合、日本の支配下に置かれたという歴史的な背景が指摘できるでしょう。
日本統治時代の韓国には、「日本の支配が早く終わって、最後の審判の日が来ないか」「早く天国に行ける日が来ないか」と考えている人が少なくなかった。独立運動に立ち上がるのではなく、「信仰心を持っている私たちだけを、神様が救い上げてくれないだろうか」と願う。極端に言えば、どこか「引きこもりっぽい」信仰ですが、支配されている人々に信仰される宗教としては、世界各地で見られる形です。
――今回、文在寅政権を支持する革新派からは、「『新天地』は朴槿恵政権時代から保守派と関係があった」との主張もありました。韓国の政治と宗教には、どのような関係があるのでしょうか。
これも歴史的な背景から説明しなくてはなりません。かつて朝鮮半島のキリスト教の中心地は多くの教会がある平壌でしたが、朝鮮戦争が起こって、北側にいたクリスチャンが宗教的自由を求め南に逃げてきた。この経緯から韓国のキリスト教の基本的性格には「親米・反共」の信条がありました。
中でも、アメリカ留学経験者が多かったプロテスタントは、同じくプロテスタントでアメリカ帰りの初代大統領、李承晩を支援するなど、保守勢力として大韓民国成立に大きく関わっていったのです。
宗教と政治思想がねじれている韓国
一方で、カトリックはプロテスタントほどアメリカ留学経験者が多くなかったこともあり、当初から親米路線が弱かった。加えて、1962~65年の第二次ヴァチカン公会議でカトリックの総本山から世界各国のカトリック教徒に向けて、社会に対して積極的な姿勢をとって協調するようにという方針が出されると、韓国カトリック教会も人権など社会問題の解決や民主化路線の強化に舵を切りました。枢機卿や司教は、韓国の軍事政権への批判を続け、カトリックは韓国の民主化運動の一翼を担うようになります。韓国カトリック教会のシンボル・明洞聖堂は、金大中を一時かくまうなど民主化運動の中心地でした。
このような戦後の流れの中で、大まかにいえば「保守派政治家はプロテスタント」、「進歩派政治家はカトリック」という形で密接な関係を築いていった。歴代の大統領も保守派の李承晩や李明博はプロテスタント。進歩派の金大中、盧武鉉、そして文在寅はカトリックです。普通、カトリックは保守的で、プロテスタントがリベラル、というイメージがあるかも知れませんが、韓国ではそれが当てはまりません。かつての韓国の独裁政権を支えてきたのも、保守的なプロテスタントでした。