このような布教方法は、「統一教会」をはじめとした韓国のキリスト教系新興宗教でこれまでも見られた方法です。「新天地」は急に出てきた存在ではなく、韓国では「ベタな」一派ともいえます。
“セックス教団”もプロテスタントから
――なぜ韓国では日本でも知られるような新興宗教が次々生まれるのでしょうか。
まずキリスト教がとても根付いていて、キリスト教の分派が生まれやすい社会であることが挙げられます。韓国の統計庁がまとめた2015年時点の調査では、「信仰する宗教がある」と答えたのは43.9%。内訳は15.5%が仏教、19.7%がプロテスタント、7.9%がカトリックでした。つまり韓国社会の27.6%、約3割がキリスト教徒です。
プロテスタントのなかには少なからず新興宗教的教団が含まれている。たとえば「統一教会」はキリスト教のプロテスタントから出てきましたし、教祖がハーレムを作るなど女性信者への性的暴行で逮捕され、日本でも2006年に“セックス教団”として一躍話題になった「摂理」も、その「統一教会」から分派した教団でした。
なぜ韓国の新興宗教の多くがプロテスタント由来なのかと言えば、カトリックは教団が一枚岩なのに対し、プロテスタント系の教団ではカリスマ的な牧師が自分のシンパを引き連れて分派していく傾向にあるからです。大げさに言えば、韓国のプロテスタント系教団の場合、ちょっと仲間と喧嘩したらすぐ分裂してしまうようなところがある。
今回問題になっている「新天地」も、プロテスタント系の新興宗教です。彼らの教義にはいわゆる「終末論」的な色彩が濃く、「世界の終わりが来たときには14万4000人だけが天国に行ける」と教えていますが、これはヨハネの黙示録の第7章第4節に「刻印を押された人々の数」が「十四万四千人」だったと書かれているのが原典だとされています。これは「神の刻印を押されるものの数」、すなわち終末に救済される人数を表すとされる数で、終末論を説く教派はよくこの数字を持ち出します。保守的な信仰をもつ人びとは、聖書に書いてあることは全て本当に起きることだと信じています。
病気が治る? お金持ちになる?
もう一つ重要な点をいえば、韓国のプロテスタントの一部には「現世利益」が持ち込まれているのです。信仰で病気が治る、お金持ちになる、といったわかりやすい利益です。日本の新興宗教もそうした勧誘手法をとりますが、韓国ではキリスト教を自称する一派がそれをやってしまう。韓国では、「恩恵(ご利益)がないから」といって、多くの教会を渡り歩く人も少なくありません。
そのように、韓国社会に根付いたキリスト教と「終末論」「現世利益」が結びついた結果が、さまざまなキリスト教系新興宗教団体の誕生なのです。
――中には過激化する団体はあるのでしょうか?
私自身が実際に見た中で印象的なのは、韓国国内で90年代に物議を醸した“病気治し”で知られるプロテスタント系の「ハレルヤ祈祷院」です。足を引きずっていた人が教祖の祈祷を受けると急に走り始めたり、「神から病名が判る力」「癒やしの業」を授かったと称する教祖が病気をその場で治したりするという“宗教行為”をしたり……。
実際に暴力的手段に出る団体もいます。「万民中央聖潔教会」という教団は、1999年に教祖についての暴露的なテレビ番組が放映予定と知り、その放送局に乱入して30分以上も放送をできなくさせたことがあります。病気治しや「奇跡」は新宗教の基本ですが、カリスマ的な教祖に率いられて過激化する団体も出ているのです。