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【広島】8月6日8時15分を語り継ぐ「ピースナイター」の意義

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/08/06

72回目の広島原爆の日

 8月6日、8時15分。広島への原爆投下から72年がたとうとしています。草木も生えないだろうと言われた広島には緑が生い茂り、広島の平和の象徴ともいえるカープの応援のため、日々およそ3万人もの人が日本全国から集まるようになりました。その中で何人の方が、8月6日8時15分に広島の街に原爆が投下されたということを知っているのでしょうか。

 わたしは東京で暮らすようになって、驚いたことが二つありました。一つは、当たり前のようにテレビの地上波で放送されていたカープが放送されていないということ。そしてもう一つが、8月6日の朝、全てのチャンネルが原爆に関する番組を放送しているわけではない、ということでした。広島では平和祈念公園のLIVE映像を基盤とした番組しか放送されていないこの日。東京で放送されている、普段と変わらないバラエティー番組やワイドショーになかなか慣れることができなかったものです。上京1年目の夏から衝撃をうけ、広島県を一歩出るとその事実はあまり伝えられていないということに気づかされたのです。

 日本でもそうならば、世界ではどうでしょう。

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 社会の授業ではもちろん教わるけど、それ以上はないのでしょう。広島の子供たちは、8月6日が夏休みの登校日、生徒全員で黙祷をするのが当たり前のことでした。広島にいたら当たり前だったこと、それは当たり前のことではないのだと大人になってから知りました。

 でもよく考えたら、長崎に原爆が投下された8月9日、投下時間までは知りませんでした。大人になるまで、8月9日に黙祷をする習慣もありませんでした。広島で育っていない人達が「知らない」ことは仕方がないのかもしれません。

 だからこそ、"あえて"伝えていかなくてはならないのかもしれません。

ピースナイターの意味

 2008年旧市民球場最後の年、広島の市民球場から日本全国へ世界へ、平和の願いを発信するために「折りづるナイター」がはじまりました。そして2009年から「ピースナイター」へと名前が代わり、今年で10回目となります。今年の「ピースナイター」は8月2日に行われました。テーマは「継承」。

 入場口で全員に配られた緑の新聞紙、5回裏に掲げると真っ赤なスタンドも黄色いスタンドも、一瞬で緑に変わりました。上段は赤でピースラインを表しました。緑に赤のピースラインはとても綺麗で、何も分からず「綺麗だね~」と見ている子供達も多いと思います。いつか大きくなった時に、スタジアムで緑の紙を掲げた日を思い出し、あれは何だったのかなと考える子が1人でもいたとしたら、意味のあることなのです。

入場口で配られた緑の新聞紙 ©大井智保子

 コンコースには折りづるを折るブースがありました。このブースも10年目になるそうです。試合中にも関わらず、カープ柄の折り紙でツルを折るファンで混雑していました。まだよく意味の分からないだろう子供達も、親に教わりながら一生懸命折っていました。楽しそうに折る子、うまくできなくて泣きながら折る子、いろんな子供達がいます。小さな子供達は、野球を見に来て折り紙を折る理由などきっと考えてはいないでしょう。それでも、いつかその子達が大きくなった時にふと思い出し、何で球場で折り紙を折ったんだろう、と考える子が1人でもいればそれで良いんだと思います。

 タイガースファンの方もたくさんいらっしゃいました。カープ柄の折り紙を折るタイガースファンの姿には、目頭を熱くさせるものがありました。

コンコースで折られた折り鶴 ©大井智保子

 みんなの平和への想いが集まり、後世へと「継承」していくこと、それがピースナイターの意味なのです。

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