これも縁だ。昨年6月、埼玉武蔵ヒートベアーズに気になる選手が入団した。
東京ヤクルトスワローズ吉田大成内野手の弟、吉田大就内野手。大学に在籍しながらのBCリーグ入団に驚いたが、いつか見てみようと思っていた地元の球団だ。いい機会だと観戦に行った。
選手はほぼ知らず、強いか弱いかも知らず。まず行ったのは桐生の球場だった。埼玉武蔵ヒートベアーズvs.群馬ダイヤモンドペガサス。武蔵はビジターで、三塁側に座っていた。
その時、背中にドンと響いたのだ。応援が。トランペットと歌が。人数は別段多くない。でも響くのだ。ビジターなのに、ホームチームを圧倒していた。かっこいい個人応援歌。リズミカルで爽快感のあるチャンステーマ。武蔵の応援、すごい。気持ちいい。チームをよく知る前に、その「応援」のファンになった。
球団公認の応援団「武蔵大使」が語ったチームの魅力
2019年、埼玉武蔵には球団公認の「武蔵大使」が3人いた。応援団として応援のリードをし、試合後には選手とファンの間を取り持つ。彼らは武蔵の一ファンでもある。17年間NPBで応援に携わっていたTOMMYさん、武蔵球団が出来た時から応援をしているコバさん、関西から武蔵の応援に通うKeetさん。その3人に応援と武蔵の魅力について伺った。
武蔵での応援を、「思いついたらすぐ行動できるので、やり甲斐はすごくありました」と語るTOMMYさんは、2019年、角晃多監督の求めに応じて武蔵の応援を始め、すぐにその魅力にハマった。角監督は今年29歳と若い。「思いついたらやりたい」「やらなきゃ分からない」という行動力の人だ。
TOMMYさんは応援歌を作り、トランペットを吹き、応援のリードに立った。シーズン中も思いついたことはどんどん実行している。守備終了の合図に「皆がどこかで耳にしている曲」を取り入れてみたり、応援用の文字を家でラミネート加工して持ち込んだり。横田選手の打席前のルーティンを取り入れ、「横田体操」と称した応援は、チアや子供達も一緒に行う名物になった。一方ではホーム球場での鳴り物応援にルールを作り、それまでかなりあったという苦情をほぼゼロにした。「鳴り物ありきではないので」。試合開始から3時間で鳴り物がなくなっても、アカペラの応援は熱い。昨季の全試合に駆けつけたTOMMYさんは、もう武蔵の応援に欠かせない人になっている。
コバさんは昨季応援に参加したのが30試合ほど。熱中症になるなど苦労もあったが、応援をしていて本当に嬉しいのは「ファンの方にすごく感謝されること」だと言う。「来てくれてありがとうって。当たり前じゃないかと思ったんですけど、見ていると応援団がいない試合もある。当たり前じゃないんだって。カルチャーショックでした」。自チームのファンだけではない。相手チームのファンからも感謝されるのだという。
選手も常々「武蔵の応援はすごい」「応援が力になる」と口にする。角監督からも「武蔵の魅力は『応援』にある」との言葉があったそうだ。関西から22試合に駆けつけたKeetさんは「応援を通し、監督や選手やファンの皆さんとの絆を深め、関係を築いていく。それを目に見えるレベルで体感出来るということは独立リーグならではの魅力ですね」と胸を張る。
何かといえば「押忍!」と挨拶代わりにする時があった。何故かは知らずとも、「押忍!」と言われれば「押忍!」と返すのが人情。
「応援団の一人が始めたんです。負けてると声が出なくなる。でも『押忍!』って言うと『押忍!』って復活してくれるんです」(TOMMYさん)
それを、応援時のファンだけでなくスタッフがツイートに使ったり、選手会長が聞きつけて「押忍って何ですか? 僕やりますよ!」と、自分も使い出したりした。「そういうところ、やっぱり近いなぁって思います。楽しいですほんとに」。