「新型コロナウイルスの発生以来、アジア人への人種差別は膨れあがっています」。反差別団体「SOS Racisme」は、こうツイートした。

「SOS_Racisme」のツイート

 匿名の女性の発信から広がった「#JeNeSuisPasUnVirus(私はウイルスではない)」というハッシュタグと共に、アジア人差別の現状を訴えている。

反響を呼んだハッシュタグ「#JeNeSuisPasUnVirus」
※写真はイメージです ©iStock.com

「コロナウイルス、消え失せろ」と落書き

 そこで私は、40年来パリで暮らしている中国出身の友人に実情を聞いてみた。すると、「そういうことが起こっているという話を聞いたことはありますが、私個人の経験から考えると、アジア人に対する嫌悪があるとは思いません」と話す。彼の事務所には、他に3人の中国人が働いているが、差別的な行為を受けた人はいないという。

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 在仏中国人ジャーナリストであるカミーユ・チェンさんは、「個人的に遭遇したことはないし、恐怖も感じません。フランスに住む生粋のフランス人ではない人たちがコロナウイルスを利用して、彼らの怒りをアジア人に向けているのではないでしょうか」と推測する。

 そういえば、「コロナウイルス、消え失せろ」と大きく落書きされた中国人経営の日本料理店があったが、いわゆる移民出身者の多いパリ郊外での話だった。

日本料理店への落書きについて報じた「Le Parisien」のツイート

 たしかに報道やSNSでは、被害に遭ったという声が数多く聞かれるが、大半はSNSでの暴言。日本でもよくみられるものだ。

恐怖で暴徒と化した島の住民

 2月29日には、カリブ海にあるフランスの海外県マルティニーク島で、イタリア、ベルギー、ドイツから来た観光客のバスが「ばい菌は出ていけ!」と叫ぶ住民たちに襲われ、タイヤに穴が開けられ、車体は落書きで覆いつくされるという事件が起きた。明らかに人種差別ではなく新型コロナウイルスへの恐怖である。メトロに乗っていたら避けられた、学校で子供が仲間から「コロナ」と呼ばれた……というような被害も、アジア人差別というよりは感染拡大に伴うパニックなのではないだろうか。

 
フランス海外県マルティニーク島での事件を報じた「franceinfo」ウェブサイトより
※写真はイメージです ©iStock.com

 こうした状況は、ここ10日ほどで大きく変わった。イタリアで多くの感染例が発表されたからだ。実は新型コロナウイルスに関する仏メディアの報道は、2月に入ってもなお「まだ中国へ行けるか?」といった調子で、文字通り対岸の火事だったのだ。