国境審査の復活反対がコンセンサスとなっている理由
隣国での流行を目の当たりにして、イタリアと国境を接する南仏選出の国会議員が国境審査復活を求めた、と報道された。現在フランスとイタリアの間の国境は、日本の県境を越えるような気軽さがある。しかし同議員はすぐに、国に対して対策強化を求めただけで、国境審査の復活を求めてはいないと報道を否定した。
原則として国境での審査なしに通行の自由を認めている「シェンゲン協定」では、国境を接した両国間の合意によって「公共の秩序および国内の安全に対する深刻な脅威が発生した場合」、最大30日間 、ただし合計6か月間(特定の場合2年)までなら更新可能な国境規制の再導入を可能としている。
だが、フランスとイタリアの極右政党のルペン党首とサルビニ党首を除いて、両国とも国境審査の復活反対がコンセンサスとなっている。
その理由は、EUの理念などといった観念論ではなく、実質的にほとんど意味がないと考えられているからだ。2015年のパリ連続テロ事件発生の際には国境審査を復活しており、不審人物や武器・弾薬を摘発するのなら効果もあろうが、今回の相手は目に見えないウイルスである。
100パーセント国境を封鎖して、鎖国でもすれば別なのだろうが、それでは経済や社会が成り立たない。第一、陸上の国境を封鎖したところで、空路も海路もある。いくら直行便を停止しても、飛行機の乗り継ぎでやってくる。まさにイタリアはいち早く非常事態宣言を出し1月末の段階で中国や台湾便を停止していたのだ。
最近の研究とシミュレーションでも、国境審査の復活は多少の時間稼ぎができる程度の効果があるにすぎないという結論が出ている。
EUは封じ込め対策に280億円を緊急拠出
EUの執行部である欧州委員会は2月24日、EU内での国境管理を復活させる決定は加盟国に属するが、「信頼できるリスク評価と科学的証拠に基づいて」「他国と連携して」行わなければならないと喚起した。国境審査の復活を決定した加盟国はまだない。
また同委員会は、EUは感染の封じ込め対策として、2億3200万ユーロ(約280億円)の緊急拠出を決めた。その内訳はWHOに1億1400万ユーロ、製薬産業に1億ユーロ、アフリカでの疫学的調査に1500万ユーロ、中国からの帰還費用に300万ユーロだ。このほか、ストックホルム郊外にあるEUの専門機関、欧州疾病予防管理センター(ECDC)が、新型コロナウイルスの集団感染が起きる危険性について、「中程度から高い水準」に引き上げ、EUレベルでの対策の必要性を呼びかけている。
人々が不安を抱え、疑心暗鬼が広がる中で、いかにしてウイルスを封じ込めるか。国際協力と協調の姿勢が試されている。