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毎日毎日「どこに行っても通用しない」と言われ続け

 嫌がらせを受けたとしても、本人が心折れることなく「辞める」という意思を持ち続け、根気強く面談の機会を要求し続ければ、最終的には退職が決まることもあります。

 しかし、正式に退職日が決まったとしても、最終出社日までの間、いじめやハラスメントを繰り返すような職場もあります。業務の引き継ぎがありますから、それまでやってきた仕事以外の作業が生じるのは当然です。しかし、退職が決まったとたん、上司の態度が冷たくなり、適当な理由をつけてまったく意味のない雑用ばかりをさせたり、実質的に、就業時間中、ただ立ち続けていることを命じたり。

 毎日毎日、「お前のような人間はどこに行っても通用しない」などと言われ続け、耐えきれずに退職代行を使って、退職日を早めた人もいました。また、「辞めるんだったら、お前が代わりを探してこい。できないなら、損害を負担しろ」と要求された人もいました。

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©扶桑社

退職代行は「心の保険」

 最終的に、そんな会社から逃げられたとしても、受けた心の傷は一生残ります。退職代行を利用すると、会社とのやりとりは原則、郵送になります。直接会うことは基本的にはありませんので、こうした嫌がらせから逃れることができます。退職代行には心のダメージを回避する保険的な側面もあるのです。

 こうした嫌がらせをするような会社では、普段から従業員が上司の言動に怯えて萎縮してしまっています。恐怖で支配されているようなもので、簡単に言いなりになってしまうため、法的に認められている権利もなかなか行使できません。

 男性上司のセクハラが原因で、うつ病になってしまった女性が、退職するために診断書を提出したところ、「そんな紙切れどうでもいいから、破り捨てて、早く仕事をしなさい」と当の上司に言われたということもありました。

 退職代行をしていて実感するのは、労働基準法を守っていない会社ほど、従業員に高圧的な態度をとる傾向があるということです。サービス残業の多さを理由に仕事を辞めようとしたら、「責任感はないのか?」と上司に追い詰められるというのはよくある話ですが、「雇用者の責任を果たしていないくせに、労働者にそれを求めるの?」と思ってしまいます。

 そういう会社に限って、こちらから代行の連絡をすると、開口一番、「うちは無理に引きとめたりはしていません」と言います。退職代行を使う理由が、必ずしも引きとめというわけではありません。こちらから「引きとめ」という言葉を口にしてもいないのに、先に言ってくるということは、悪いことをしているという意識がどこかにあるのだと思います。