「退職代行サービス」が会社を辞めたいと考える人の間で話題を呼んでいる。上司のパワハラや職場の環境、同僚とのミスマッチなど、職場を変える理由は人それぞれだ。しかしいざ退職を決意しても、自力で実行に移せない人も少なくないのだという。たとえみずから退職を申し出ても、上司に突っぱねられたり激しい嫌がらせを受けたりする可能性も考えられる。
そんな悩める社会人に救いの手を差し伸べるのが、退職代行サービス。退職代行サービスでは、退職の過程で必要な連絡を代行業者が当事者の代わりに行ってくれる。基本的に当事者は会社と直接連絡を取る必要がなくなるため、退職代行サービスは「仕事を辞める」と言い出すことで生じる厄介ごとを肩代わりしてくれる、いわば「心の保険」ともいえるものだ。
退職代行サービスを展開するONE-BYE合同会社代表・桐畑昴氏の著書『明日から会社に行かなくていい 退職代行マニュアル』(扶桑社)より一部を抜粋し、その利用者の実情を紹介する。
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脅して諦めさせる会社
「人手不足だから、退職するな。どうしても辞めるなら〇〇するからな!」と脅迫するパターンもあります。特に労働組合がない、あるいはあっても機能していないような小さな会社の場合は、労働者の権利に関する考えがとてもあいまいで、上司と部下の力関係が何より優先されます。完全に「ブラック企業」と認定できる会社で、辞めさせないためにはなんでもアリ。非道なことも平気で行います。
脅しでよくあるのは、親を巻き込もうとするパターンです。会社を辞めることを親に知られたくない人の場合、その弱みにつけ込み「親に連絡するぞ!」と脅します。こうした場合、自分で無理やり辞めようとすると、本当に親に連絡することがありますので注意が必要です。
また、親の理解をすでに得ている場合でも、実家に何度も電話をされたら迷惑をかけてしまうため、それを恐れて退職できない人もいます。
実際にあった悪質なケースとしては、すでに絶縁関係にある親への連絡をちらつかせることで、退職を諦めさせようとした会社がありました。彼女は入社後に両親が離婚し、事情があって父親とは完全に関係を絶っていました。そのことを知っている上司が、「入社時の緊急連絡先に記載されているから、父親に連絡することになる」と脅してきたのです。
こうしたケースのように、会社に弱みを握られて脅されることが多いのですが、そればかりではありません。
よくあるのが、理不尽な損害賠償の請求です。「人手不足なのに勝手に会社を辞められると、会社が回らなくなる。損害を賠償しろ!」などと脅してくるわけです。
人手不足によって経営が成り立たないのは経営能力の問題であって、従業員に責任はありません。実際に訴訟を起こしたとしても勝ち目はないので、単なる脅しにすぎないことがほとんどです。しかし、そのことを知らない従業員は、背負うかもしれない金銭的負担を考えて、退職を諦めてしまうのです。