「中国から納入されるはずのベッドが来ない」
さすがにトイレの洗浄便座がない、ベッドや机・椅子がないでは、ホテルは開業を迎えることはできない。あるホテル建設関係者に聞いたところでは、「6月に建物が竣工する都内のホテルでモデルルームを製作しているのだが、中国から納入されるはずのベッドが来ない」という。仕方がないのでベッドがあるものと仮定してとりあえずはデザイン調整などをしているというが、現状本当に納品されるか目途はたたないとのことだ。
同様に既存ホテルを建替え、7月の五輪開催までにオープンを控えているホテルオーナーは、ホテル関係者の会合でこう言って慰められたのだそうだ。
「おたくはいいじゃないですか。今ホテルはやっていないのだから新型コロナウイルスの影響はないでしょう。うちは大変ですよ。なんせ毎日運営コストはかかるからね。あんたはラッキーだよ」
だが現実はそのオーナーも、自身のホテルオープンまでに家具類が中国から無事納品されるか気が気でないとのことだった。
ホテル業界の“5つのリスク”
近年のホテル業界には5つのリスクがあると言われる。1つ目が景気変動リスクだ。経済活動が振るわなくなれば出張者が減少し、宿泊や宴会需要が落ち込む。2つ目が政治リスク。近年お隣りの韓国とゴタゴタが生じた結果、インバウンドの主流の地位にあった韓国人訪日客が激減。とりわけ九州や大阪などの宿泊需要に影響が出た。
3つ目が災害リスクだ。最近頻発する地震やゲリラ豪雨、台風などの気象リスク、火山の噴火など、自然災害は宿泊業界には脅威となる。4つ目がテロや戦争リスク。95年に起こった地下鉄サリン事件はまだ記憶に新しいが、こうしたテロや戦争は観光需要などを一気にしぼませる。
そして5つ目が今回の疫病リスクだ。実はホテル業界ではここ最近でもSARSやMERS、新型インフルエンザといった疫病の影響で成績を落とした年を経験している。
だが、今回の新型コロナウイルスの惨禍は過去の疫病リスクを超越しており、この影響は意外と長引くことが懸念されている。ましてや五輪開催の中止や延期などとなれば、せっかく死ぬ思いでオープンにこぎつけた新築ホテルも、誰も客がいないなどという考えたくもない事態が想定される。
緊張の続く国内で、ホテル業界の生き残りに向けた試練が続いている。