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AV女優は最高だが日本人の英語はクソだ

――話の内容は凄まじいですが、呉用さんって他の三和ゴッドよりも論理的な話し方をしますよね。

呉用 三和の住人のなかでは、俺の学歴は最も高いはずだからな。あと、俺はたぶんお前よりも英語が上手いぜ。例えば××××(と英語で喋る)×××××……、ざっとこんなものさ。っていうか、日本人ってなんであんなに英語が下手なんだ? 職場でもたまに会うんだが、ひどすぎるぞ。

――“職場”とは? もしかして三和の生活を抜け出して、IT企業に復帰したんですか?

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呉用 いや。ホンハイの工場の門番(通称「工場のイヌ(廠狗)」)をやっているだけだ。ホンハイには日系企業の出張者もよく来るんだよ。日本人って、エロビデオの女優は最高なんだが、英語はマジでクソだよな。どいつもこいつも訛りがきつくて、何を言っているのかわかりやしねえ。

シャープの親会社でもある台湾企業・ホンハイは中国国内で100万人規模のワーカーを雇用しており、深圳にも大工場を持つ。運転手や「工場のイヌ」として雇用される労働者も多い。写真は台湾・台北市郊外の鴻海精密工業本社(2016年5月筆者撮影)。

――日本人の英語の話はさておき、なんで更生しようと思ったんです?

呉用 さすがに人生を立て直さなきゃと思ってな。借金がまだ20万元(約320万円)ぐらい残っているんだが、親戚に借りたカネは返さなきゃいけないんだ。ホンハイはカネ払いがいいから、1日16時間労働で、残業代をできるだけ稼ぐことにしている。いまやネトゲやバクチどころか睡眠時間もろくにない生活だよ。三和での自堕落な暮らしを倍返ししているようなものだ。

――将来の目標とかってあります?

呉用 借金を返して、いつか故郷に帰ることだ。両親はもうすぐ70歳だが、三和で暮らしていたときは一切連絡をしないでいたし、これから親孝行しなきゃとは思うんだよな。地元に職があればそれに越したことはないんだが。

現代のアヘン窟・激安ネカフェとネトゲが三和の人々を惹き付ける(2017年6月筆者撮影)。

――三和から抜け出したいま、三和ゴッドたちをどう思いますか?

呉用 三和の住人は3種類に大別される。ひとつは日雇いや週雇いで稼いだ小銭を自堕落な遊びにつぎ込んでいる連中だ。ネトゲ廃人、スマホ廃人、といろいろいるけどな。基本的にはどうしようもないクズだと言っていい。

 もうひとつは、精神に疾患があるような真の社会的弱者で、しかも親類や友人を持たない人間だ。実は三和にはこういうやつらも多く暮らしていて、彼らは本当にかわいそうだから、笑いものにしちゃいけないんだ。

 最後のひとつは、ギャンブル中毒者や多重債務者で、家族や友人に合わせる顔がなくなって隠れ暮らしているやつらだ。俺はこの3つ目に該当する。最もどうしようもない人間だよ。

――ありがとうございました。

*   *   *

 元はそこそこのインテリだったプライドと、それゆえの自己嫌悪感がない混ぜになった話をしてくれた呉用。近年の中国ではウェブ決済が普及しているため、現金を使わずに事実上のギャンブルをおこなう例が増えてきたことも、現実感が欠けたまま多額を賭けてしまう結果を生みがちなのだろう。

 デジタル工場の短期労働でわずかなカネを稼いでも、ネトゲ・バクチ・性欲といった目先の欲望に抗しきれずにあらかた費消してしまい、心の底でこんな生活に見切りを付けたいと思いつつもダラダラとその日暮らしを続ける――。まさに現代中国版の「サイバー苦役列車」。三和の街は、そんな私小説さながらの人たちが汚泥にまみれて蠢(うごめ)き足掻(あが)く無銭横丁なのである。

 中国ナンバーワンのイノベーション都市・深セン。その郊外に広がるスラム街は、今日もさまざまな弱者の人生を呑み込みながら、新たな伝説をつむぎ続けている。

※本原稿でも言及した「三和ゴッド」についての現地取材ルポは以下に詳しくまとめている。

さいはての中国 (小学館新書 や 13-1)

安田 峰俊(著)

小学館
2018年10月3日 発売

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