契約違反問題で昨年AKBグループから独立した​中国・上海発のSNH48が愛国アイドル路線を爆走中。オタクを愛国戦士に“フライングゲット”したい習近平政権の愛国キャンペーン最前線をルポライターの安田峰俊さんがレポート。

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 今年10月1日、中国は68回目の国慶節(建国記念日)を迎えた。同月の18日に第2期習近平政権の顔ぶれを決める共産党大会が予定されていることから、今年は特に露骨な愛国キャンペーンが展開されている。

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 例えば国営放送CCTVは国慶節に合わせて『厲害了、我的国(スゲえぞ、わが国)』と題した中国スゴイ番組を大々的に放送。内容は高速鉄道建設やイノベイションなど各方面における中国の偉大さを自画自賛するものだ。

 この波は社会全体に及んでいる。例えば上記の番組中で紹介されたシェアサイクル大手のofo社とモバイク社は、タイヤに「スゲえぞ、わが国」と書かれた国慶節バージョンの自転車車両を中国全土の160以上の都市で大量に配置するという、別な意味で中国スゲえと思わせる行動に出ているほどだ。

北京市内で回収車に載せられて運搬される、ofo社の「中国スゲえぞシェアサイクル」。競合するモバイク社も同様の車体を投入している。筆者撮影。

 中国スゲえの愛国キャンペーンに乗っているのはシェアサイクル業界だけではない。かつてAKB48の姉妹グループで、昨年6月に独立したSNH48も同様だ。彼女らはもともと2012年に秋元康のプロデュースによって上海で結成されたアイドルグループで、かつてはSKE48やAKB48と兼任する形で宮澤佐江・鈴木まりやの日本人メンバーも参加、日中エンタメ交流の一角を担う存在だった。

 だが、やがてSNH48の中国側運営会社が、秋元康のチェックを経ない中国国内オリジナル楽曲をリリースしたり、BEJ48(北京)やGNZ48(広州)などの姉妹グループを日本側運営会社AKSの許可を得ず設立するなどしたことで、AKSは「契約違反」であると激怒。昨年6月10日にSNH48は独立を宣言し、これに先立ち宮澤・鈴木の日本人メンバーも上海を去った。(※上記の「契約違反」については双方の見解が異なるため、本記事では詳述しない)

 その後の彼女らは中国の地場アイドルグループとして、AKSグループ時代以来の専用劇場・SNH48星夢劇院を拠点に活動を続行。やがて独立騒動の火種となったBEJ48やGNZ48に加えて、SHY48(瀋陽)・CKG48(重慶)・CGT48(成都、結成準備中)といった独自の姉妹グループをどんどん展開する。さながら水をぶっかけられたグレムリンのごとく、謎の大量増殖と独自の進化を繰り広げるようになったのである。

https://youtu.be/WfWU9KuifzM
※AKSとの手切れ以前のSNH48メンバーが歌っていた『ポニーテールとシュシュ』の中国語版『馬尾与髪圏』のMV。歌唱のレベルやカメラワークはAKB48の本家MVよりも数ランク落ちる印象だ。

 SNH48はこの「脱日本化」事件以降、中国の純国産アイドルとして国内市場を見据えたマーケティングを開始するようになった。その一環としておこなわれはじめたのが、現代中国に吹き荒れる愛国ブームへの接近だ。